みんなだいすきなアイツ
今日は『協会』からの要請があるまで主人公ちゃんの特訓に付き合うことになっている。
まあ先輩として色々教えてあげたいのは山々なんだが、俺は肉体強化に特化しているため魔法は一切合切使えない。
そのため体術の指導をしているわけだが.........
「せいっ!はぁっ!」
もうね、さすが主人公様だと言わざるを得ない。
『乾いたスポンジのように吸収していく』なんて比喩表現を生まれて初めて実感したよ。
教えたことを素直に実践して、全て自分の糧にしていく様は見ていて圧巻だ。
レベルアップ音の幻聴が絶え間なく聞こえてくる。
「先輩っ!こんな感じで大丈夫ですかっ!?」
そうそう、そんな感じでダイジョブダイジョブ。
でもそれ覚えるの俺は一か月近くかかったんだけどなぁ。
元気に才覚を振り回すさやかを尻目に飲み物の用意をする。
水分補給はやっぱり大事、古事記にもそう書いてある。
そろそろ休憩にしよう、ホカリとアヌエリヤスどっちがいい?
「あ、じゃあホカリで」
クーラーボックスに入れてたホカリを投げ渡し、特に疲れるような運動はしてないが俺もアヌエリヤスを開けて飲む。
少し休憩し、続きを再開しようとすると突如連絡用のスマホが鳴る。
『下水道にスラミーが大量発生したので倒してほしい』
大まかな内容はこんな感じの『協会』からの要請が来ていた。
定期的に湧くんだよなぁあいつら
「先輩、早く行きましょう!」
ま、練習した技の相手にはちょうどいいか。
俺たちは他の魔法少女たちと手分けしてスラミーの掃討に向かっていた。
「...........いきます!『破砕撃』」
さやかは早速覚えたばかりの技でスラミーたちを撲殺していた。
『破砕撃』
ゲームではMP消費5で出せて、なおかつ防御力を無視してダメージを入れられる技。
中盤くらいで使えるようになり、少ないMP消費でどんな敵でもある程度のダメージを出すことができるため、最後まで出番に事欠かない技だった。
まあでもスラミーに撃つ技ではないけど。
スラミーをぶっ飛ばしまくっているさやかを尻目に俺は通常攻撃で淡々と倒していく。
今はこんなにスラミーをボコボコにしているさやかだが、最初はスラミー相手にもビビってたし、苦戦してたのを考えると成長を感じて感慨深くなる。
なにせこの『下水道』はゲームで一番最初のステージなのだ。
さやかが初めて戦ったときのへっぴり腰なパンチと比べたら雲泥の差。
子の成長を喜ぶ親のような気持ちになりながら殲滅していく。
「........これで全部かな。先輩のほうはどうですか?」
こっちももういないっぽいかな。疲れたし早く帰ろう。
任された区域のスラミーを殲滅し終えて下水道から去ろうとしたとき、後ろから何か大きな気配を感じた。
とっさに隣のさやかを突き飛ばす。
「せ、先輩?!」
べたべたする粘液の塊を浴びせられ、動きを阻害されながらも後ろを振り向くと、そこには大きな赤いスラミーがいた。
この『下水道にいるスラミーを殲滅する』というサブクエストにはランダムイベントが発生することがある。
それがこの『巨大スラミー』だ。
スラミーを全て殲滅し終えた時に唐突に表れて不意打ちで先制攻撃を仕掛けてくる。
その内容が────
────『毒』と『粘液』の状態異常である
『毒』
言わずとしれた状態異常の代名詞の一つであり、『マジリバ』でも効果はおなじみの『ターンごとにHP減少』である。
『粘液』
これは大体スラミー系統の奴らが使用してくるバステで、効果は『敏捷と回避率減少』である。
「先輩っ!大丈夫ですか!?」
俺は大丈夫だ。,,,,,,,,さやか、お前は応援を呼んできて来てほしい。
「え.......?」
いいから早くっ!
「は、はいっ!!」
そして、この『巨大スラミーイベント』は気を付けなければいけないことがある。
それは推奨レベルが高すぎること。
そう、何を隠そうこの『巨大スラミー』、倒すには中盤が終わった直後あたりのレベルが必要なのだ。
一番最初のステージのサブクエストで出てくる敵エネミーだってなめてると普通に負ける。
さやかのレベルはようやく序盤が終わったあたりのため逆立ちしても勝てないだろう。
俺?正直、真面目に戦ったら勝てないことはないと思う。
だがそれは真面目に戦ったらの話だ。
────コイツに負けた時のバステを受けてみたい。
俺の頭は今それでいっぱいなのだ。
『マジリバ』では一部の敵キャラに負けると敗北イベントの後そのままゲームオーバーになってしまう。
この『巨大スラミー』イベントでゲームオーバーになることは確かなかったはずだが、念には念を入れてさやかに応援を呼んでおいてもらう。
ある程度の戦闘した跡は残す。何もせずに負けちゃうと周りから『こいつHな目に遭うためにわざと負けたんだ.........』と言われながらゴミのような目で見られしまうかもしれないし。
そして準備が終わり、ぼろぼろの体で目の前の『巨大スラミー』を見る。
俺の何倍もあるその体で今にも覆いかぶさろうとしているのも見て、お腹がキュンッとなった。
そして、俺は飲み込まれた。
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