第2話 成人する
成人式と言ってもこちらの成人式は形式的なもので、貴族にとっては心器の授与式という側面が強い。 当たり前なのだが、平民も何か罪を犯していない限りは心器を授かる事が出来る。しかし平民の多くは武器ではなく、職業に適した形になる事が多い。農家であれば農具、鍛冶師であれば鍛治道具、裁縫師であれば裁縫道具といった具合だ。理由としては単純で、必要だから心器が応えるのだ。
神話では神様が邪神を打ち倒す為、人々に『
逆に貴族は、武器でなければならない。この異世界において、貴族の義務は魔物等の脅威から平民を護る事にある。それは政治的な意味でも、物理的な意味でもだ。だから武力がなければ貴族ではないと言われてしまう。大きな力を持っていれば平民は安心する事が出来るし、反乱分子を抑えることが出来る。
「なぁ、シモン。俺はどんな心器になると思う? 俺程の男になると能力も凄まじいと思うんだよな。お前もそう思うだろ?」
「僕も兄上の意見に同意だよ。兄上は火の魔法が得意だし、能力も火が関係するんじゃないかな」
「おぉ! 確かに俺の魔法と合わせれば最強になる事間違いなしだな! お前の頭もこういう時は役に立つもんだな」
馬車の中で兄のエリクが機嫌良さそうに「ガハハハ」と笑っている。よっぽど僕の言葉が心地よかったらしい。
「そうそう、こないだステータスを確認したらまた出力が上がってよ。お前にも特別に見せてやるよ。『ステータス』」
エリクがそう唱えると前世で言うゲームのシステムウィンドウの様なものが浮かび、そこにはエリクのステータスが書かれてあった。
────────────────────────
エリク・フォール 15歳
・心器
???
・魔法
属性 火
魔力量A 操作B 出力A
・スキル
礼儀作法C 剣術D
────────────────────────
「凄い! 魔法の欄にAが2個も付くなんて、流石兄上だね」
「そうだろ? まっ、お前には無理だろうけどな。お前はどうなんだよ。見せてみろよ」
エリクは性格こそ悪いがこと魔法においては天才だ。ここまでのステータスは大人の貴族の中でも上澄みだろう。僕がこれに勝てる訳がないが、折角機嫌が良いのだ。損ねるくらいなら引き立て役になろう。
「『ステータス』」
────────────────────────
シモン・フォール 15歳
・心器
???
・魔法
属性 風
魔力量B 操作A 出力C
・スキル
礼儀作法B 剣術B 盾術C 弓術C
────────────────────────
「はは! 出力C? 笑っちまうな! ちゃんと練習しなきゃダメだろ〜」
「はは⋯⋯、その通りだね」
僕のステータスは特段高いわけでもないが、決して低い訳ではない。しかしエリクは魔法の事になると、毎回こうやって僕の出力が低いことを馬鹿にしてくる。
何故僕が家を追い出されていないのか。理由の1つは、僕の魔法のステータスが高いからだ。フォール家は代々魔法の適性が高く、父の弟モリーズは宮廷魔道士である。父は恐らく僕を宮廷魔道士にして、フォール伯爵家としての力を伸ばしたいのだろう。フォール家の血が魔法ステータスの高いものだとアピール出来れば、今度はセレストを有力貴族との政略結婚に利用できるからだ。前世では考えられないかも知れないが、これが現実なのだ。
そんな事を考えながらも、僕は既に教会内を進んでいた。この世界には神様は1柱しかおらず、唯一神として崇められている。教会は華美な装飾が無く、シンプルながら品のある造りである。
周りには僕達と同じく今年学園に向かうであろう貴族の男女が椅子に座わると、神父が前で話をし始めた。内容を纏まると、まずこの世界の成り立ちから、心器を授かるまでのお話だ。そして邪神を打ち倒した後、この日まで人々は手を取り合って来たと言う話だ。
心器は残酷にもその人の心を露わにしてしまう。数少ない例ではあるが、自身の心器を受け入れることが出来ずに一生心器を取り出す事がない人もいるらしい。それを考えれば神父さんが注意を重ねる意味も分かる。「目を逸らしてはならない」。目を逸らしてしまえば、それは自分を自分で否定するという事だ。再び前を向くのが難しいのは考えるまでも無いだろう。
「⋯⋯今日、あなた達はこの成人の儀において神に大人の一員と見なされます。その証として、神は心器を授けて下さいます。決して目を逸らしてはなりません。心器とはあなた達の心そのもの。心の弱さはあなた達の1つの側面に過ぎません。心器と⋯⋯、己の心と向き合いなさい⋯⋯。さぁ、今よりあなた達は成人と見なされました。目の前の光に手を伸ばして下さい。どうか、恐れないで」
光が瞬き、目を開けると目の前には光があった。淡く光り輝き、とても綺麗だと感じた。神父の言葉通りに目を背けず光に手を伸ばすと、広い空と真っ白い地面がそこには広がっていた。
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