99 大団円が訪れるのこと

 ――小鳥の鳴く声が聞こえる。

 金玉は、申陽の寝台で目をさました。


「ん……申陽さん……?」

 隣に彼がいない。

 金玉が身を起こすと、夜着をきた申陽が、こういった。


「おはよう。八宝茶はっぽうちゃでも飲むかい?」

 いろいろな素材をブレンドした、美容と健康にいいお茶である。


「うん、飲む……ありがとう」

 金玉は肩に夜着をひっかけ、申陽のもとへいった。


 ここは申陽の自宅だ。

 窓からは、朝のさわやかな光がさしこんでいた。

 金玉はお茶を一口のんでから、いった。


「ぼくたち、やっと本当の夫婦になれたんだね」

「ああ」


 だけど、金玉は急に悲しくなった。


「ぼく、人間だからそんなに長生きできないよね。

 でも、寿命いっぱいまで申陽さんの側にいるから……」

 

 夫婦となった今、人間と妖怪の懸隔けんかくを思うと、胸がはりさけそうだった。


「え? 君も蟠桃ばんとうを食べただろう。

 不老長寿の効果があるから、私と同じだけ生きられるよ」


 金玉たちは、太上老君の家で、蟠桃をおやつに食べたのだった。


「そ、そうだった! よかった……あれ?

 でも、肝油は蟠桃を食べたのに、ハゲのままだったよ」


「へえ、あいつ、ハゲてたのか」

「いつも帽子をかぶってただろ。それだったんだよ」

「ハハハ。きっと、既に毛根が死んでたのさ」


 ――死人の墓を暴き、衣を剥ぎ、さらに鞭打つ二人であった!


 だけど、まだ少し心配なことがあった。


「申陽さんのおばさんに、怒られちゃうかな?

 ぼく、ふたなりじゃなくなったから、もう子どもは産めないよ」


「君は私が幸せにするし、私は君がいるだけで幸せだ。何も問題はない」


 申陽は牽牛と同じく、こう達観したのである。

 ――親戚連中なんて、どうせ何をやったって文句をいうのだ。放っておこう。


 二人はそろって、露台に出た。

 小鳥が鳴きかわし、水色の空が広がっている。

 大羿たいげいが空に残しておいた太陽が、今日も規則正しく昇っている。


 もう、ぼくたちを邪魔するものは何もないんだ。


「ねえ、申陽さん。前にぼく『月がきれいだね』って言ったろ」

「ああ、そうだったな」


「それが『愛している』って意味なんでしょ。

 じゃ『すてきな朝だね』って言ったら、どうなるの?」


「そりゃあ――」

 申陽は笑って、半裸の金玉をひきよせた。

「『最高の夜だったよ。もう二度と離さない』ってことさ」

 そして、金玉のおでこに、軽く口づけをした。



 銀漢与離別啼泣 恋人たちは天の川に引き裂かれて悲しみの涙を流す

 美少年和猿巡合 しかしとうとう二人は巡り合った

 陰陽交万物相通 陰陽交わりて万物相い通じるなり

 蒼穹朝日小鳥鳴 ゆうべのことは非公開ですね


 二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。

 めでたし、めでたし。



                           【劇終】

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