98 この世界に童貞の神さまがいない理由のこと

 愛を誓いあう金玉と申陽であった。

 だが……!


「そろそろ出ていっていいかピョン?」

 兎児が、木の陰からごそごそ出てきた。


「わっ、兎児君!」

 金玉は、あわててドンと申陽を突き飛ばした。


「あーあ、とうとうそのうす汚い化け猿にすべてを捧げちゃったかピョン」

「文句あるのか?」

 申陽はウサギを今晩の夕食にしようとした。


「それより、もうすぐ帝がやってくるピョンよ」

 兎児は、ぴんと耳を立てた。


「えっ、どうしよう」

「金玉は絶対に渡さんぞ!」


「それじゃー、また同じピョン。寝取り寝取られ、争いはいつまでも続くピョン」


「確かにそうだが……ではどうしろと!」

 申陽は父の罪業を思い出して、拳を固めた。


 ――やはり三秘3Pしかないのか!


「ボクも月に帰れなくなってから、自分の身の振り方をよく考えたピョンよ。

 童貞の神さまがこんなことするのはよくないけど、これも金玉を助けるためピョン。そもそもボクの力が足りなかったから、金玉は貞操を失ったわけで、ボクも責任をとって……」


「兎児君、だから何なの?」

「これが、たったひとつの冴えたやりかたピョン!」


 兎児がくるりと回転すると、黄色い煙がボフッと出て、ふたなりの金玉が現れた――全裸の。


「もともと、ボク、ふたなりだったピョン。(第5話参照)

 ボクが金玉の身代わりにとついでやるから、安心するピョン」


「兎児君、ほんとにそれでいいの? あの帝だよ。

 結婚したら、どんなにいやらしいことされるかわからないよ!」


「友だちのためピョン。これでいいピョン。さあ、二人は隠れてるピョン」


 ほどなくして、帝の金玉を探す声が聞こえてきた。


「金玉、どこだーっ?」

「天佑さまあっ、ここだピョン!」

 兎児は全裸のまま走っていって、帝に抱きついた。


「そ、その姿はっ?」

「暑いから脱いじゃったピョン」


「……ピョン?」

「い、いや、これはそのっ……ピョン」

「なにやら、そそるのう。よし、これから金玉以外が『ピョン』語尾を使うのを禁じるぞ」

 

 ――帝は未来に生きていた!

 

「天佑、大好きピョン!」

「私もだ。本当のことをいうが、男だった時のおまえより、今のふたなりのほうがずっと好きだぞ」

「うれしいピョン」


 ――二人の性癖はぴったりと一致していた!


 彼らの様子をのぞき見ていた金玉は、こうつぶやいた。

「……なんだ、兎児君が帝を好きだっただけじゃん」


 兎児は帝をプッシュしていたが、それは最も自分好み――未来に生きる感性の持ち主――であったからだった。


「じゃあ、私たちも帰ろうか」

 申陽は大羿の弓をかついで、西風大王のお札をとりだした。


「うん、そうだね」

 ついでに湾珠王の張形も「こんな卑猥なものを放っておくのは……」と回収した。


 *


 昔々、一匹のウサギが、月から下界をながめていました。

 すると、かっこいいお兄さんが全裸で洗濯をしていました。

 あんまりにも身をのりだしたので、ウサギは月からすべり落ちてしまいました。


 しくしく泣いていると、美少年があらわれ「ぼくといっしょに旅をしよう。月へ返してあげるよ」といいました。

 ウサギは童貞神どうていしんだったので、お礼に彼の童貞を守ってあげることにしました。

 二人はすぐに友だちになりました。

 

 ある時、美少年は三人の男から求婚されることになりました。

 猿と、盗賊と、帝です。


 ウサギは、猿はいかつくて、化け物じみていたので好みではありませんでした。

 盗賊は、帽子をとった姿を見たことがあるので、好みではありませんでした。

 帝の異常な感性は好みでしたが、友だちの求婚者です。横取りするわけにもいきません。

 ウサギは苦しい日々を過ごしていました。

 

 最終的に美少年は、猿の化け物と結婚することに決めました。

 ウサギは「なにがいいのかぜんぜんわからないピョン」と思いましたが、チャンスです。


 ウサギは、友だちそっくりに変身しました。

 そして帝と結婚して、宮殿で幸せに暮らしました。

 子どもも、ウサギのようにたくさん産みました。


 ある時、帝はこう言いました。

「そういえば、我らはまだやっていないプレイがあるな。そなたにわしの処女を授けよう」


 それは恐れ多くも、リバのお誘いでした。


「ま、待つピョン。ボク、処女は前も後ろも捧げたピョン。でも、童貞はっ……」

「ふふふ。よいではないか」

「ボク、童貞神なのにっ……だめっ、いやあーっ……ピョン!」


 世界にはたくさんの神さまがいます。

 けれど、童貞の神さまだけは、どこにもいません。


 それは皇帝が、童貞神の童貞を奪ってしまったからなのです。



 以下、次号!

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