91 金玉は悦蛇に我が身を捧げんとするのこと
金玉は帝の背中ごしに、煌々と照る満月を認めた。
――ああ、満月の日、男たちはみんなぼくの体を求めて、ケダモノのようになってしまうんだ。
「さあ金玉、我らの初夜だぞ」
帝は金玉を組み敷き、やさしくその肌をなでる。
「やめてっ! ああ、申陽さん!」
申陽はだくだくと青い血を流して、うつぶせに倒れている。
「ええい、妖猿のことなど捨ておけ!」
帝は先祖の無念をはらすため、金玉が自ら求めるように仕向けようとした。
そして二千文字ほどのやりとりがあった後、ついに金玉はこう言ってしまった。
「天佑さまっ、ぼく、もうっ……」
「ふふふ、体は正直だな。欲しいのであろう?」
「いやっ、しないっ! 申陽さんの横で、こんなこと……!」
「やはり恥ずかしいか?」
「恥ずかしくなんかないよ! ぼく、もう待てないっ!」
「よくぞ言った!」
満足した帝は、己の剣を突き立てようとした。
帝が「いや、待てよ。どっちからにしようかな?」と、一瞬迷った、その時!
「うーん……」
悦蛇が目をさました。
帝がじっくりたっぷりねちこくあれこれしている間に、薬の効き目が切れてしまったのだ。
「わわっ、金玉ちゃん! 何してるのっ?」
悦蛇はびっくりして、触手で帝の首根っこをひっつかみ、ポイと投げ捨てた。
その力はものすごく、帝が気を失い、剣もなえるくらいだった。
「ち、ちがうよっ! 誤解しないで……ひいいっ!」
悦蛇は、自分の触手でぐっと金玉を持ち上げ、空に立たせた。
にゅるにゅるしていた。
「あの、僕たち結婚するんだから、貞節は守ってほしいなぁー、なんて……」
「ご、ごめんなさいっ!」
金玉は、全身をぬめぬめうぞうぞにはいまわられて、気が狂いそうだった。
「悦蛇さま、許して、許してえっ!」
「うん、そりゃ許すけど……だって金玉ちゃん、エッチだもんね」
「ぼく? ぼくがっ? そんなことは……」
「じゃあ、これなに?」
「ひっ!」
悦蛇は、金玉の薔薇のつぼみに、にゅるっと触手をまきつけた。
「それに、ほら、ここ」
「あっ、だめえっ!」
悦蛇は金玉のしとどに濡れた蜜壺に触手を入れた。
「でもやっぱり、金玉ちゃんはここが好きかな?」
そして悦蛇は、ほどよく広がった後庭に太めのものを差し入れた。
「ひっ、ぼく、もうっ――!」
金玉は、人間業ではない悦蛇の責めに、たちまち陥落してしまった。
「金玉ちゃん、ぼくが寝ちゃってたから、待ちきれなかったんだね。ごめんね?」
「ああっ、悦蛇さま……」
荒い息をつく金玉の前に、双頭の蛇がコンニチハした。
「あっ、あの、今日は食べなくていいよ。ぼくも早くしたいし……い、いいかな?」
「で、でもっ……」
金玉は申陽を見た。愛しい人を放っておいて、こんな……。
「ああ、あの、悦蛇さま! 申陽さんが大変なんです。
悦蛇さまのお力で、生き返らせてくれませんか?」
「うわっ! 気づかなかったよ。
い、いいけど……ちょっと入れてからでいい?」
聖獣も、満月の呪いには勝てないのであった!
「ほんとに生き返らせてくれる? できるの?」
「まあ、大丈夫だけど」
――なぜなら神にも等しい力を持っているから!
「は、はい。ぼく、恥ずかしくなんかないからっ! どうぞ……」
金玉は羞恥をこらえ、その身を捧げんとするのだった。
――だが、その時!
申陽はうす目をあけて「いいかげんにしろよ……」とつぶやいた。
そして弓のもとまでずりずりとはっていって、身を起こした。
――まったく! いつもいつもいつもこうだ。「いいだろ?」といわれたら、一応「ダメだよ!」とはいう。だがすぐに「ああんっ、ぼく、もう我慢できない」だ。
もしかしてこれが運命だというのか?
私は父の罪業により、恋人を寝取られる定めだというのか?
ふざけるな……。
申陽は渾身の力で、弓をひきしぼった。血がどろっと口から出た。
――
「ああ、悦蛇さま、はやくぅ……」
金玉が、本気か演技かわからない、甘い言葉をもらしている。
「う、うん、じゃあいくよ」
金玉が禁断の法悦境に至らんとした、まさにその時!
――レイティングの矢が、あやまたず二頭の亀を串刺しにした!
悦蛇のものすさまじい苦悶の咆哮は、天をもゆるがした。
彼は金玉を抱いていた触手をしゅっとひっこめ、その正体をあらわにした。
そのまま洞庭湖に倒れ込み、水中で巨体をのたうちまわらせた。
悦蛇がふり回した尻尾は、
そのおかげで、不周山を土台にしていた、天を支える柱が、根本からボキリと折れた。
天空はポールを失ったテントのように垂れ下がり、大地は猫が思いきり遊んだカーペットのように斜めにずれた。
東西南北四つの極が狂い、夏も冬も、昼も夜もない状態になった。
さらに悦蛇は暴れ回る。
大嵐が起こり、雷鳴がとどろき、
金玉の体は濁流にのみこまれ、海に浮かぶ木の葉のようになってしまった。
――申陽さん! 死んじゃったの?
波間にちらりと彼の姿が見えたが、たちまち波に引きはがされ、姿を見失ってしまった。
――あれ? いつか、どこかで、こんなことがあったような……?
金玉はそう思ったが、自身もまた、濁流にのみこまれていくのであった。
以下、次号!
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