80 いよいよ金玉は婿選びをするのこと
「さあ、これで候補者が全員そろったわね」
金玉の母香月は、ダチョウの扇をふぁっさふぁっさやりながら、楽しそうにいった。
申陽が戻ってきたとのことで、アフタヌーンティーのあと、近くの宿場にいた肝油を呼び寄せ、すぐにそのまま婿選びをすることになったのだ。
風呂に入って服を着替えた金玉は、びくびくしていた。
――申陽さんに、あんなとこ見られるなんて……。
あの時金玉は、帝の頭を再び
「ちがうよ! これは天佑が無理やり……」と訴えたが、
申陽は「服を着た方がいい」と言っただけだった。
それからは、何を話しかけても黙ったまま……。
今は金玉と両親、候補者三人が、食卓にそろっている。
「皆さんご苦労さま。では結果発表ね。
陛下は宝ナシ、肝油さんは竜の珠、申陽さんは大羿の弓を持って帰ってきましたわね」
「宝のないやつは、失格ってわけだな」
バラの花束をかかえた肝油の言葉に、香月はこう返した。
「あら、そうかしら? 帝には国家の治安維持というお仕事があったわけですし。
仕事を放り出して、旅に出る人なんて、信頼おけませんわねえ」
「おい、そんな解釈アリかよ!」
「金玉、あなたは誰を選ぶの?」
香月は、横にいる金玉にたずねた。
「え? ぼくが選んでいいの?」
「もちろんそうよ。陛下は、自分の仕事をおろそかにしない方だわ。
肝油さんも申陽さんも、並みのものではない宝を持ち帰ってきた……みなさん、あなたの婿にふさわしい方だと証明されたわ。
あとはあなたの気持ち次第ね」
肝油と帝の間に「だったら、最初から金玉に決めさせろよ」という空気が流れた。
「じ、じゃあ、ぼくは――」
「私は辞退させて頂きます」
申陽はひとこといって、席をたった。
「ま、待って……どうして!」
――どうしてもなにも。
「君とは結婚できない」
金玉は、そのそっけない声に、胸を刺されたような思いだった。
ぼくが帝にスコーンを食べさせて、クリームをなめさせて、おまけに蜂蜜まであげて、バターまみれになってたから……そう、きっとそうだよね。
――実のところ申陽は、自分以外の男に足をなめさせていた金玉の姿に、絶望していたのだったが。
申陽は、そのまま弓を持って部屋を出ていく。
「放っておけよ。どうせ旅の途中で、どこかの美少年にほだされちまったのさ」
肝油は、自分にも少なからずあてはまることをいった。
「金玉、私が宝を持ち帰らなかったのには理由がある。
そんなものに頼らず、自分の力だけで君の愛を手に入れたかったのだ」
帝が口を出した。
「へっ、そんなもん、どうとでもいえるぜ。
単に、宝を手に入れる力量がなかったんじゃねえのか?」
「私は国の平和を維持するために働いていたのだ。
茶巾賊を一網打尽にするためにな」
「なっ……」
肝油は賊として働いていた頃、いつも茶色い帽子をかぶっていた。
そのために、彼らは茶巾賊と呼ばれていたのだ。
「今日、その賊めらをいっせいに検挙した。
中には我が国の兵となっている者もいて、その奸計には驚かされたよ。
もちろん、そやつらの九族はすべて捉えた。
ざっと三千人だな。
赤子にいたるまで、みな
肝油の手下をみな捕まえ、彼らの九親等の親族に至るまで、のこぎりで胴体をゴリゴリ切断しよう、ということだ。
「き、きさまっ!」
肝油は剣を探したが、バラの花束しか持っていない。
さすがに義理の両親の前で武装するわけにはいかなかった。
「やめて! ぼく、天佑と結婚するよ!」
「ほう、そうかね?」
帝は、
「だ、だからお願い。ひどいことしないで。
肝油にも、他の人たちにも」
「国にめでたいことがあった時は、罪人もその罪を許される。
もちろん、私と金玉が結婚したら、
何もかも許そう。たとえ茶巾賊といえど、な……」
そして部屋に、兵がどやどやとやってきた。
あらかじめ、言いつけられていたのだろう。
手下を人質にとられていては、抵抗もできない。
肝油はそのままひったてられていく。
「ああ、天佑、お願いだから……」
「わかっておる。式が終わるまで、大人しくしておいてもらうだけだ」
帝が兵をひきつれて出ていったあと、香月はたずねた。
「金玉……本当にそれでいいの?
あなたが望まないなら、お父さんもお母さんも、命を賭けて反対するわよ」
香月は原稿書きに忙しく、夫の耐雪が帝と内通していることには、まったく気づいていなかったのだ。
「うん、いいんだ。ぼく……帝と結婚するから」
金玉は寂しげに微笑んだ。
以下、次号!
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