67 肝油は竜宮城でなんだかんだするのこと

 肝油は美酒にしたたか酔って、銀明ぎんめいと一緒にもつれるようにして、寝台に倒れこんだ。


「肝油さま……」

 燭台のあかりの下、銀明をじっと見つめる。


 見れば見るほど美少年だ。

 金玉より少し年上で、触れなば落ちんという色っぽさがある。


「ぼく、肝油さまのためなら、なんでもご奉仕いたします」

「ほぉー……」


 ――そんなこんなで。


「おら、もっと奥までくわえろよ」

「う、ううっ」

 銀は、肝油のものから口をはなし、えずいた。


「どうした。ご奉仕してくれるんじゃねえのか?」

「に、苦くて……」

「おれのがマズいってのかよ」

「いいえ! そんなことは……」


 ――ああだこうだで。


「もういいぜ。自分でする」

「ああっ、申し訳ありません……どうか、もう一度ぼくにチャンスを」

「それじゃあ、ぜんぶ飲めたら許してやるよ」


 ――なんだかんだで。


「ぐ、うっ」

「ほらよ、王子様。一滴残らずなめるんだぜ?」


 ――いろいろあって。


 冷静になった肝油は、一気に青ざめた。


 おれは、竜王の一人息子になんてことを!

 それに、金玉!

 おれは金玉との結婚のために、竜の珠をとりにきたんだぞ。

 つい酒に酔っちまって……許してくれ。本気じゃねえんだ!


 自分のブツの前では、全裸の銀明が、口をおさえてうつむいている。

「お、おい……すまねえな。やりすぎちまったよ」

「い、いいえ! ぼく……とっても美味しゅうございました」


 銀明が立ち上がると、銀明自身もまた立ち上がっていた。(原文ママ)


「ああっ、お恥ずかしい……」

「じ、じゃあ、おめえもよくしてやるからよ」


 肝油はせめてもの詫びにと、自分も銀明に礼を尽くそうとするのであった。


 *


 肝油と銀明は、朝風呂に入って朝食を食べたあと、東海龍王に挨拶にいくのであった。

 銀明はうっとりした様子で、肝油に肩をよせている。


 ――結局、こいつといろいろしちまったぞ。

 親父さんに会うのか? 気まずいなァ。


 肝油は銀明と契ってはいなかったが、それと同じくらいのことは散々にやってしまった。


「はっはっは、肝油どの、おはようございます。どうでしたかな、昨日は?」

「いやあ、たいへん結構なおもてなしで……」


「父上、それがその……」

 肝油は、何を言いだすのかとギョッとした。


「どうしたんだね」

「ぼく、肝油さまに失礼なことをしてしまったんです」

「ほう?」

「ぼくが、肝油さまの大きくてたくましいものを受け止められなくて……」


 銀明は、よくむせてしまうのであった。


「やれやれ、困ったやつだな。自分でも慣らしておきなさい」

「はい、すみません……」


 肝油は「親子でオープンすぎる会話だな」と思ったが、こういった。


「まあまあ。はじめての者に、私のは大きすぎるのでしょう」

 さりげなく、自分を大きく見せる肝油であった。


「肝油どのはお優しいですな。こいつはまだほんのネンネでして。

 存分に仕込んでやってください」

「は、はあ……」


「まあ、ごゆるりと逗留なされるがよろしいでしょう。

 その間に、息子もほぐれてくるでしょうから」

 

 東海龍王は、鷹揚おうように笑うのであった。


 *


「肝油さま、竜宮城を案内します!」

 銀明は先に立って、広大な竜宮城を巡っていく。東側に、ひとつの離れがあった。


「ここが、春の庭です」

 

 離れの部屋の扉をあけると、桃花村で見たような、美しい桃林が広がっていた。

 小鳥が鳴き、やわらかな春風がふいてきた。


「海の底だろ。いったいどうなってんだ?」

「お父様が、地上の春を楽しみたいといって、天界の職人さんにつくってもらったんです」

 

 二人は桃林の下を散策する。

 庭は広大で、どこまでいってもキリがないようであった。


「他にも、夏の庭には蓮の花が咲いていて、秋のは菊の花、北では美しい雪景色が楽しめますよ」

「たいしたもんだ」


「ここは竜宮城です。どんな望みもかないます。

 でも、ぼくは外の世界を見たかったんです」


 銀は、じっと肝油の目を見た。


「この広い海の外には、何があるのだろうって、ずっと考えてました。

 それである時、波の上に出てみたんです。

 そうしたら、陸に打ち上げられて、暴漢に襲われて……」

 銀明は、こわそうに身をふるわせた。


「銀明」

 肝油は、銀明の肩にそっと手を置いた。


「でも、いいんです。おかげで、肝油さまに会えたのですから。

 肝油さま、お慕い申しております。

 どうかぼくと結婚して、この竜宮城にお留まりください!」


 ――それは金玉との結婚話がナシになるということである。

 決めきれない肝油は、ぼそぼそといった。


「言っとくが、おれはただの人間で、本業は盗賊だぜ」

「ぼくは、肝油さまの優しい心をよく知っています!」


「銀明には、もっと良い縁談がいっぱいあるんじゃねえのか?」


「父も、ぼくたちの仲を許してくれました。

 愛する心に、水生動物も陸生動物もないと言っております」


 ――東海龍王は、マリアナ海溝より深い慈愛の心を持っていた!


「……いいのか?」

 肝油は、なにをどう考えても、自分が竜王の婿になるにふさわしい人間だとは思えなかった。


「肝油さま……ぼくのこと、きらい?」

「いや、そんなことはねえよ」

「ぼくがヘタだったから? ごめんなさい、許してっ」


 そして、肝油の首に腕をからませた。


「おいおい」

「ぼく、一生懸命するから……だから、お願い……して?」

 銀明は、肝油の耳元に熱っぽくささやくのだった。


「チッ、この淫乱王子め! 昨日の今日でまだ欲しいってのかよ!」

「す、すみません! 出過ぎたことを申しまして……」

「望み通りにしてやらあっ!」

「ああっ!」


 ――なんだかんだで、肝油と銀明は、桃の花咲く庭でたわむれるのであった。


 以下、次号!

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