63 香月は婿たちに無理難題を与えるのこと

「香月、どういうつもりなんだい」

 耐雪は、おろおろして妻を見やった。


「わたくしは、ただ金玉に幸せになってもらいたいだけでございますわ」

 香月は、悠揚ゆうよう迫らぬ態度で、答えた。


 ――皇帝と結婚しなくてもいいのはありがたいけど、じゃあ誰を選ぶの?

 金玉には、母が何を考えているのか、まったく推しはかることはできなかった。


「まず、朱帰どの。あなたには出ていってもらいましょう」

 香月は扇をとじて、ぴしりと朱帰を指した。


「ね、義姉さん……なぜ?

 私が金玉の下着を盗んだからですか?

 それとも、会うたびに彼をなで回して、自分のものをこすりつけていたからですか?

 それとも、彼が座っていた椅子の匂いをかいで、自涜じとくしていたからですか?

 それとも……」


 朱帰の罪業は、まだまだ出てきそうだった。


「わたくしの目はごまかされませんことよ! あなた、ショタでしょう?」


 ショタとは、正太郎コンプレックスの略である!

『鉄人28号』の主人公、金田正太郎に由来する。半ズボンをはいた小学生くらいの男子がいいなあ~、という性癖である。


「そ、それは確かに。私は金玉が小さい頃から、大好きでしたよ」


「金玉も、もう十六歳。ショタというには厳しい年ですわ。

 もし朱帰どのが金玉と結婚しても、年々、その愛はさめていくでしょう」


「そんな! いや、まあ、そう言われてみれば、そうかもしれません。

 小さい金玉が私に入れてくれれば、どんなに素敵だったろうか……」


 それはそれで、犯罪であろう。


「おい、ショタコン! お母様がああ仰ってるんだ。おまえはガキどもと遊んでな!」


 肝油は朱帰を引きずって、部屋の外へと追い出した。

 

「いやあ、御母堂ごぼどうのご判断は、まことに素晴らしい。

 やはり金玉を幸せにできるのは、私だけですよ」


 申陽は得々とくとくとしていたが、香月はするどくつっこんだ。


「あなた、妖怪のようですけれど、新居はどこに構えるおつもり?

 あの子が遠い異文化の土地で苦労するなんて、可哀そうですわ」


「も、もちろん私が婿入りしてきますから――」

「やっぱり、人間は人間と結婚するのがいちばんなんだよ!」


 だが香月は、肝油にも冷たい言葉をかけた。


「金玉をさらった山賊というのは、あなたなのでしょう?

 結婚前からそんな乱暴なことでは、DVの心配が絶えませんわねえ」

 香月は、朱帰からそのことを聞いていたのだ。


「そ、そりゃあ、すまん……悪かったさ。今では改心したんだ! だから……」


「どうやら、御母堂には考えがおありのようですな。

 では、金玉さまにふさわしい婿とは、いったい――?」


 丞相は、香月の真意をたずねた。


「わたくしが望むのは、金玉が幸せになってくれることだけ。

 そのためには、智慧と勇気を兼ね備えた人でなければなりませんわ。

 そこには、くらいも身分も、人も妖怪も関係ないのです」


 みなは「なるほど、もっともなことだなあ」とうなずいた。


 さらに香月は続けた。

「それを試すための良い方法があります――」


「まず、陛下には『星辰せいしん碁石ごいし』をとってきてもらいましょう」


「なんだ、それは?」

 帝は素直に質問した。

「そこから自分で考えるのです!」

 香月は、帝を帝とも思わない態度であった。


「肝油さんは『りゅうたま』を手に入れてきてください」


 竜は絵にかかれる時、だいたい珠を持っている。

 その竜の珠のことなのだろう。


「申陽さんは『大羿たいげいの弓』をもってきてください」


 かつて、空に十個の太陽が現れて、人々は日照りに苦しんだ。

 その時、九つの太陽を弓で射て、世を救ったのが大羿だ。

 

 耐雪は、妻をいさめようとした。

「いったい、そんな宝がどこにあるのかね。

 ファンタジーRPGの設定資料集にしかのってないよ」


「――問答無用! 宝をもってきた方を、金玉の婿とします!」


「お母さま……」

「大丈夫よ、金玉。これであなたにふさわしいお婿さんが見つかるわ」

 香月は、不安そうな金玉を優しくなぐさめた。


 男たちは「なんて無理難題を出すババアだ。これじゃあ、先々の結婚生活が思いやられるぞ」と、未来の姑にうんざりしたものの、

「金玉と結婚せねば、生きている甲斐がない」と思ったので、それぞれ宝を探して旅立つのであった。


 以下、次号!

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