62 母、香月のターンがやってくるのこと


 かくして、金玉とその一行は、実家の門をくぐることになった。


「金玉、おかえりなさい!」

 母、香月は、にっこりと微笑んで、我が子を出迎えた。

 隣には父、耐雪がいる。


「お父さま、お母さま……ぼくの体のこと、聞いた?」

 金玉は、おずおずと尋ねた。

 もしかして、ぼくは太上老君の痔をなめたほうがよかったのでは……と不安になりながら。


「ええ、もう知ってるわ。でも、そんなの小さなことよ。あなたが元気でいてくれれば、わたくしはもう十分よ」


「そうそう。母さんは、おまえが帰ってくるときいたら、もう大喜びだよ。私もうれしいよ」


 耐雪は「いいのか? 息子×自分の同人誌なんて……」と思いつつも、息子が元気でいてくれたことは、天に深く感謝するのであった。


「父さん、母さん……!」

 金玉は父母に抱きつき、親子三人は再会の喜びに涙するのであった。


 *


 父母は帝を出迎えるため、盛大なホームパーティーの準備を整えていた。急いでいたのでケータリングサービスを利用したが、宴席は整えられ、みなは円卓を囲んで、大いに飲み食いしたのであった。


 金玉は父母の隣にいて、うれしそうに語らっている。


 肝油は少し離れたところからそれを見て「厄介なことになっちまったな。どうやって連れ出そうか」と悩んでいた。


 申陽も申陽で「よく考えれば、私は妖怪だからな……私が最も不利なのではないか?」と暗い思いになってしまった。


 宴もたけなわになった頃、丞相が口をきった。


「さて、そろそろ本題に入りましょうか。金玉さまは身も心も美しい方です。

 陛下は金玉さまを妻にしたいと仰っていますが、ご両親はいかがですかな」


「そ、それはもう。

 天子さまがお望みとあらば、私どもは何もいうことはありません」


 金玉は、父親の答えにびくっと身をふるわせた。

 そんな! ぼくは申陽さんと、手巾を交換したのに――。


「では、こちらで婚礼の準備を進めさせて頂きましょう。まずは結納金から――」


「お待ちくださいませ」

 香月が、丞相の言葉をさえぎった。


「わたくし、まだ賛成しておりませんことよ」

 そして、なぜかダチョウの羽を使った大きな扇子を取りだして、ふあっさ、ふぁっさとあおぎはじめた。


「は、はいっ! 決して、御母堂の意見を粗末にしているわけでは――第一正妃ですよ。国母こくぼですぞ。悪くないお話でございましょう?」

 丞相は香月の機嫌を損ねまいとして、丁重にいった。


「香月、どうしたんだ? 皇帝がお望みなんだぞ」

「あなたは黙ってらっしゃい!」

 香月はぴしゃりといった。


 若かりし頃、耐雪が「さすがにこの表現はやばいよ。ボカシを入れないと」というと「あなたは黙ってらっしゃい! こんなものR13くらいよ!」と返したように……。


「お母上……私はいやしくも大糖帝国の皇帝だ。

 金玉は必ず幸せにする。結婚を許してもらえないだろうか?」


 義両親は、自分の両親と同じ……皇帝は「なんだこのババアは」と思いつつも、婿の立場からは逆らえないのであった。


「陛下におかれましては、天下の美女財宝、手に入らないものはございますまい。

 たとえ翡翠の玉を手に入れても、瑪瑙や青金石が山と積まれていては、翡翠だけをでるわけにはいかないでしょう」


 ――金玉を正妃にしても、ほかに妃がたくさんいるのだから、金玉だけを愛するわけにはいかないでしょう? という意味だ。


「わたくしにとっては、たった一人の子どもです。

 貴人の家で埋もれるより、庶人の家で大切にしてもらったほうが、金玉にとっては幸せかもしれませんわね」


 申陽と肝油はこれを聞いて「チャンスだッ!」と思った。


「御母堂! 私は欧申陽と申す者です。

 金玉を愛する心では誰にも負けません。

 どうか、金玉を嫁に頂きたい!」


「いや、こいつは見ての通り、妖怪ですぜ!

 やっぱり人間には人間がいいですよ。

 平凡でも幸せな暮らし、ってね」


 肝油がいったあと、朱帰がばたばたと部屋にとびこんできた。


「兄さん、義姉さん! 金玉が戻ってきたと聞いて――金玉をめとるのは私です! 

 親戚同士で安心だし、金玉のことを誰よりもわかってるのは私です!」


「ほほほ。候補者が出そろったようね」

 香月は楽しそうに笑って、扇をふぁっさふぁっさとやるのであった。


 以下、次号!

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