61 香月は禁断のCPに手を染めるのこと

 丞相は年をおして金玉の家へと駆け、父の耐雪に用件を伝えた。


「つ、つまり、金玉がふたなりになって、皇帝陛下が金玉を正妃になさりたい、と……?」

 耐雪は、目が飛び出そうだった。アゴが外れそうだった。

 なんといっていいかわからない。


「ま、端的にいえばそういうことですな。

 ところで、帝から贈り物がある。これが官位リストだ。

 お父上には、どれでも好きな官位を任命するので……」


 とりあえずプレゼントを贈って、好感度アップ作戦だ。


 ちなみに、既に「帝がプレゼントした財宝を保管するための、新しくて大きな家」を建設中である。


「ま、待ってください。妻は、金玉が行方不明になってから、ずっと病の床についているんです。伝えてきてもよろしゅうございますか?」


「もちろん、奥さまにも賛成なさってもらいたいですからな。


 ……ああ、そうそう。帝のほかにも金玉さまの婿候補が二人いるようですが、そんなものはしょせんモブ、脇役にすぎませんな」


 慧眼けいがんの丞相は、肝油と申陽が金玉を狙っていることを、既に見抜いていた。


「まあ、あの子はモテますからね」


「婿には、陛下! 陛下! へ、い、か! でございますからな。

 何卒、陛下に投票よろしくお願い致しますよ」


 選挙カーのアナウンスのように、陛下をプッシュする丞相であった。


 *


「あら、あなた……どうしたの?」

 香月は、以前と比べればいくらか容体は回復したが、まだ本調子ではなかった。


 同人イラストを描いているが、ラフや落書きだけだった。

 まだネームを切るには至っていない。


 今は寝台の上で、三蔵法師が四つん這いになって、馬に攻められる図の落書きをかいていた。


「香月、落ち着いてきいてくれ――」

 耐雪は妻に、金玉の身に起こった変化を語った。


「……そんな、あの子が、金玉が……」

 香月はペンをぽろりと落とした。


「だ、大丈夫だ! 金玉は元気で、体に傷一つついてないというし」


 そうはいったが、耐雪は不安だった。

 妻は、息子がふたなりになったという事実を受け止められるのか?

 

「ふ、ふふ……」

「香月?」

「金玉が……ふふ、あはは……」

「香月! 気を確かにもってくれ!」


 ――ああ、妻がとうとう狂気に陥ってしまった。

 耐雪は絶望に突き落とされた。


 ――だが!


 香月は布団をバッとはねのけ、寝台から飛び出た。そして、両足を大地にふみしめて、高らかに宣言した。


李我りが先生ッ! わたくし、とうとう生涯のテーマを見つけましたわッ!」


 李我とは、香月の漫画の師匠のハレンチ大先生である。


「金玉がふたなり……いいじゃないの! 素敵だわ!

 これからは、あの子をモデルに描きましょう。

 ああ、創作意欲が湧いてくるわ。

 じゃあ何をかこうかしら? 婿どの×金玉? それはもちろんよね。

 でも、婿どののことはまだよく知らないわ。まずは資料を集めないと。


 今すぐ書けるのは、えーと、そうね……これよ!

 金玉×ダンナよ!

 ふたなりになったから、女攻めでも男攻めでもどっちでもいけるわ。

 今度の新刊のネタはこれで決まりよ!」


 金玉が左側にきているので、つまり息子が父を攻めるということである。

 

 ――香月は、禁断の身内ナマモノカップリングに手を出そうとしていた!


「……あいや、待たれよ……法女子ほめこどのっ……!」


 耐雪は、香月を昔のペンネームで呼んだ。


自重じちょう……自重なされよ!

 それは禁断の父息子近親相姦ネタ……レイティング的にいかがなものであろうか?」


 耐雪は香月の同人漫画の熱心なファンだったが、

 自分が受けになって息子から攻められるという図には、さすがに心胆しんたんを寒からしめるものがあった。


「ほほほ、淫龍いんりゅうどのともあろうものが、何を弱気なことを」


 淫龍とは、耐雪のハンドルネームである。


「わたしが切断流血漫画『阿部さんといっしょ』をかいた時は、ベタ入れを手伝ってくれたでしょう。

 これくらいの設定で何を取り乱しておられるのですか?」


「そ、それはそうだが……」

 それは青いツナギをきた阿部さんの恋人、道下が、他の男とハッテンする阿部さんに嫉妬して、阿部さんのすごく大きいものを切断する話であった。


「さっ、もうすぐ金玉が帰ってくるんでしょう?

 あの子の好きなおかずを用意しておかなくちゃね!」


「そ、そうだ! 帝のほかにも、婿候補が何人かいるそうなんだが……」


「わかりましたわ。

 わたしが、あの子にふさわしいお婿さんを選んであげましょう。

 まずは、ホームパーティーの準備よ!」


 香月はすっくと立って、侍女にてきぱきと指示を与えるのであった。


 ――ま、まあ、妻も息子(娘)も元気だから、いいのかな……?


 耐雪は複雑な思いを抱えつつ、無理に自分を納得させようとするのだった。


 以下、次号!

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