56 肝油と申陽は、八卦炉の番をするのこと

 さて申陽と肝油は、太上老君から三日三晩、八卦炉はっけろの火をたやすなと言いつけられていた。


 八卦炉とは、万物をいかようにも生成できる、魔法の炉だった。

 だが、その火が絶えると再着火するまでに百年もかかってしまう。

 それに火が弱ると、仙薬はおしゃかになってしまう。


 そんなわけで肝油と申陽は、巨大な炉に、汗だくでコークスを放り込んでいるのであった。


「あー、疲れた。ちょっと小便だ」

 肝油はいって、申陽にあとを任せた。


「早く戻ってこいよ」

「ああ」


 肝油にとって、炉の火なぞどうでもよかった。

 彼は、自分の下腹のほうの熱をどうにかしたかったのだ。

 

 ――金玉、待っててくれ!


 だいたい、金玉のあんな破廉恥ハレンチな姿を見せられて、そのままにしておけるか。

 今すぐおれのをつっこんで、昇天させてやるぜ。


 肝油は焼けた火かき棒を抱えて、先ほどの部屋へと急いだ。


「金玉! 続きをしよう……あれっ?」

 簡易ベッドの上には「探さないでください」との置手紙がある。


「おい、大変だぞ!」

 肝油は、炉の前に戻って、申陽にその手紙を見せた。


「おまえ、また抜け駆けしようと……」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。金玉が行方不明なんだぞ!」

「よし、じゃあこれを使おう」


 申陽は、一瞬にしてどこへでも連れていってくれるチートアイテム「西風大王のお札」を取りだした。

 ――炉の火がどうこう、のことはまったく忘れきっている。


「私を金玉のもとへ連れていってくれ!」

 ……何も起こらない。


 そして、札からこんなメッセージが流れてきた。

 ――おかけになった宝貝ぱおぺいは電源が入っていないか、電波の届かない場所にあるため、お連れできません。


「な、なんだ?」

「西風大王は、この札は『天界へはいけない』と言っていた。まさか、金玉は天界にいってしまったのでは?」


「どうして金玉がそんなとこへ?」

「……金玉は、あの月の呪いのことを気にしていたんだ。

 嫦娥さまに会って、呪いをといてもらいに行ったのかもしれない……私との結婚のために」


「はあっ?」

 呆れる肝油の前で、申陽はうっとりとして語った。


「金玉は私の手技テクニックのとりこになったのだ。もう私にメロメロだ。

 私と結婚する前に、呪いを解いて清い身になりたいと思ったのだろう」


 ――我田がでん淫……引水いんすい思考、ここに極まれり。


「ふざけんな! 金玉はおれの笛の吹き方がお気に入りなんだよ」

「黙れ。最終的に烏賊いかせたのは私だろう?」


「――きさまら……真面目に炉の番をしとらんか!」

 大声一喝、太上老君が現れ、雷を落とした。


「この子授けの薬は、回春薬にも使えるんだ!

 最近お疲れな天帝に捧げて、私が褒美をたっぷりもらうんだ!

 わかったら、真面目に炉の番をしておれ!」


 最高格の仙人とは思えない、卑俗な動機だった。


「だいたい、おれたちゃ子授けの薬なんてどうでもいいしな」

「そうそう、我々の最終目的は金玉の愛だ」

 こんなところでは意見が一致した。


「黙れ、この凡俗どもが!

 私の法力で、あの小僧をはずかしめてやろうか? うろつき童子の再来だ!」


 太上老君は、伝説の触手アニメの名を持ち出してきた。

『超神伝説うろつき童子』――触手モノの元祖にして金字塔の、異形妖魔アダルトファンタジーアニメである。


 おんなのひとがくうちゅうにもちあげられていろんなあなにばけもののしょくしゅがではいりしてうわあーたいへんだあーというおはなしである。エロというよりグロみが強い!


「くっ、卑怯だぞ!」

「わ、わかった。真面目にやるから、どうか金玉だけは……」


 肝油と申陽は青ざめ、大人しく火の番にあたるのであった。



 みんなはBLで触手モノってどう思う? 好きかな? どうかな?

 以下、次号!

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