55 金玉は腐ったヒキガエルに出会うのこと

「う、ううっ……」

 取り残された金玉は、乱れた姿のまま、簡易ベッドの上でぐすぐす泣いていた。

 

「二人がかりであんなことして……ぼく、もうお婿にいけない!」

「大丈夫だピョン。まだ童貞喪失していないピョン。R15で余裕でいけるピョン」


 兎児とじは、自分的レイティングで判断した。

 彼が想像するR18とは、いかなる酒池肉林なのだろうか?


「あんなに恥ずかしいことするなんて!」

「――でも、金玉も良かったピョン?」

「うっ……」


 兎児は、さらに追い打ちをかけた。

「恥ずかしい姿を見てもらうのがいいピョン? その方が興奮するピョン?」


 金玉は先ほどの戯れで、自分の内なる欲望を呼び覚まされてしまった。


 そんな己のあさましい姿をつきつけられ、思わずこう言ってしまうのであった。

「もう、肝油も申陽も知らないっ! 出ていくからっ!」


 金玉は「探さないでください」と書置きを残し、太上老君の家を抜け出すのであった。


 *


「金玉、どこへ行くピョン?」

「二人のいないところへだよっ!」

 金玉は家を出て、やたらめったらに歩いていくと、いつしか月がのぼっていた。


「帰ったほうがいいんじゃないピョン?」

「やだよ! だって……」

 金玉は言い淀んだ。


「そんなことしたら、三人でしようって話になるんじゃないの?」

 おまえばっかりよくなってんじゃねえよ。私たちにもしておくれよ、とかなんとか……。


「うーん、確かにそうピョン。今度は間違いなく童貞喪失ピョン」


 金玉が道をとぼとぼ歩いていくと、草むらから女性の泣き声がきこえてきた。

「ううっ、ぐすん……」

 だけど、彼女の姿は見えない。


 金玉はその悲しげな声に誘われて、自分もわっと泣いてしまった。


「なんだよ、肝油のバカ! あんなに気持ちいいことして……もっとしてって思っちゃったじゃないか!

 それに申陽さんのケダモノ! 豚のくせに、ぼくをあんなに激しく……バカ! 変態!

 結婚したら、毎日アレするの? どうしよう。ぼく、壊れちゃうかも。もっとやさしくしてほしかったのに……」


 金玉が、感想だか非難だか要望だかをいっていると、茂みがガサガサッと動いた。


「――え、なになに? それって男同士の話? 聞きたいわ」

 草むらからは、一匹の大きなヒキガエルが現れた。

 その声はメスのものだった。


「な、なにっ?」


「私は百花仙子ひゃっかせんし百花ひゃっかちゃんって呼んでね。

 好きなカップリングは、年下攻めの親父受けよ!

 まだ年若い青年が、自分が憧れ尊敬する親父を愛憎半ばして抱くのがたまらないの。

 でも一応なんでもオッケー派だから、心配しないで」


 ああ、そういう人……。

 金玉と兎児は、一瞬にしてすべてを了解した。


「で、なになに? どういうカップリングなわけ? 詳しく聞きたいわ」

 名前だけはかわいい百花は、ヒキガエル姿でのそのそ近づいてきた。


「あの、百花さんはなんで泣いてたの?」


「私、もとは仙人だったんだけど、下界に落とされちゃったのよね」

「ぼくと同じピョン!」

 兎児はピョンとはねた。


「それで月に帰りたくて泣いてたんだけど、でも、そんなことどうでもいいわよねッ!

 さあさあ、どんなストーリーなの? 早く教えてちょうだい!」


 百花は、本当にどうでもよさそうだった。


「い、いやあの……」

「ああ、もしあなたが語ってくれないのなら、私、悲しくて泣いちゃうわ。この身を嘆いて、土の上で干からびてしまうかも」


 やや脅迫気味に言われたので、金玉はしぶしぶ、自分の体験を語るのであった――。


「そ、それで、申陽さんはぼくを背中から抱きしめて、

 そのたくましい手でぼくの……あれを……ああ、あんなに激しくされるなんて……ぼく、頭がまっしろになっちゃって……悔しいけど、すてき……」


 金玉は言っているうちに、だんだん妙な気分になってきた。

 これも一種の羞恥プレイなのかもしれなかった。

 

「うーん、なるほど! いいじゃないのぉ~。

 でも本番にいかなかったのは残念だわね。そのまま、ずっこんばっこんやりまくっちゃえばよかったのに」

 

 ――ナチュラルにこの思考法である!


「そんなの、ダメだよっ! 三人でなんて!」


「そうねえ。金玉くんはどっちが好きなの? 本命は誰?

 三人でするとしても順番が大事よね。ア●ル処●はどっちに捧げるの?」


 こういう卑猥な言葉を、なんのためらいもなく使う女であった。


「もう、二人ともイヤだよ! あんないやらしいことして! どっちも選ばない!」

 そうはいっても、その身がうずく金玉であったが……。


「あらそう。それじゃあ、占いにでもいかない?

 最近、よく当たる占い師さんがいるって聞いたのよ~。

 金玉くんの運命の人を占ってもらいましょうよ」


 百花は女の子(?)らしく、占いが好きなようだった。

 金玉も、少しワクワクした。

 ――運命の人がわかるのなら、知りたい!


 金玉は、ウサギとヒキガエルと一緒に街にやってきた。

 お腹がすいていたので、夜市で焼きトウモロコシを買って食べた。


「ほら、あそこよ」

 百花は、道端にござをしいて座る、一人の男を見つけた。

 ちょび髭をたくわえた、貧層な男だ。

 彼の側には大きなずだ袋と杖がある。何に使うのだろうか?


「おお、いらっしゃいませ。よく当たるよ、よっといで」

 占い師は、妙な呼び込み文句をいった。


「あの、ぼくの恋愛運を見てほしいんですけど」

 男は、金玉の手相を見た。

 

「おお、そなたの運気はこれから大きく変わるぞ。

 しばらくは苦労が多いかもしれないが、それによってそなたは真実の愛を見つけられるだろう」


 抽象的で、なんだかよくわからなかった。


「おじさん! そんなことはいいからさあ、この子の運命の相手を

 ズバリ教えてあげてよ。わかるんでしょ?」

 百花が口を出した。


「よしよし、では、そなたの名前と生まれた場所を」

「金玉で、南海県の出身だよ」


 金玉が告げると、占い師は側にあった大きなズダ袋のなかをごそごそとさぐりはじめた。

 まるで聖誕老人サンタクロースの袋だ。


「……あれ? すまん、もう一度名前を」

「金玉です」

「金玉か? 禁玉ではなく、筋玉でもない?」

「はい」


「……ない。ないぞ」

「なにがないのよ?」


「金玉の赤い縄だ! あれは私がぜんぶ編んで作っているのに!」

 金玉がちらりと袋の口を見ると、中には赤い縄が、ぎっしりつまっていた。

 釣り餌のミミズのようにも見える。


「まずいぞ。このままじゃ、人間の運命を乱したといって、始末書ものだ。

 ちょっと君、一緒ににきてくれ!」


 占い師は袋をかつぎ、金玉の手をぐっとにぎった。


「ち、ちょっと待ちなさいよ」

「ぼくもついていくピョン!」


 男が杖をふると、たちまちあたりに白い煙がたちこめた。


 その煙が消えた時、二人と二匹の姿はかき消えていたのであった。


 以下、次号!

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