48 李狷は昼だが月に吠えたくなるのこと
李狷は暗い顔をして、出版社に自分の原稿を持ち込んだ経緯を語るのであった……。
「こんな講評が送られてきたんだ」
――才子佳人ものをベースにした恋愛小説で、堅苦しくなく読みやすい作品に仕上がっています。
ただ、科挙受験によって離れることになった恋人同士という設定は凡庸で、これといった突出した部分がありません。
青年と美少年の触れ合いでロマンティックで耽美な部分があったり、ドキドキするような展開もなく、別離の苦しさもそれほど伝わりませんでした。
恋のライバルを出すのはいいのですが、場面や人物のキャラクターに闇の部分が感じられず、設定が活かされていないように感じました。
「……だとよ。そして結果は一次落選だ。他の出版社も似たり寄ったりで、最高は二次通過だが、それだけじゃなんともならない」
それと桃林破壊となんの関係があるのだろうか――金玉は問うた。
「なんでそんなに書籍化したいの?」
「……作の
「今は小説投稿サイトがいっぱいあるじゃん。そこにアップしてれば……」
「きさまは何もわかってないッ! アップすればアップしたで、ランキングだPVだ★だなんだと、また無限の優劣の比較がはじまるのだ」
しかし、それは臆病な自尊心とでもいうべきものであった。
己の
「そんなに出しても無理なら、きっと向いてないんだよ」
やがて、李狷はさわやかな口ぶりで答えた。
「……いやー、ハハハ、そうなんだ。私もそろそろあきらめようと思っててね」
「その小説書いてる時間で、資格でもとればよかったよね。
そうすれば、天界のお役人もやめられるしさ」
「いやあ、まったくだよ」
李狷は冷静ぶりながらもこう思っていた。
――どうすればいいのだ。己の空費された過去は?
それを思うと、もう己はたまらなくなる。
そこへ最後の一撃がきた。
「――才能なかったんだよね」
わたしはこのようにうだつのあがらない身で小説投稿サイトに作品をアップし、あなたは羽ぶりのいい書籍化作家としてトップページのバナーにのり、まさしく意気さかんである。
この山あいで明月を仰ぎながら、わたしはりっぱな小説を書くこともできず、ただうめき声のようなエッセイを書き継ぐだけである。
金玉は、己の目を疑った。
李狷の耳のあたりに、黄色い毛が生え、それは見る見るうちに全身をおおっていく。
そして四つん這いになった李狷は、もうすっかり馴染みのものであるかのように、
虎となった己のするどい爪を見やった。
筆をとれないその手を。
「こんなあさましい身となりはてた今でも、おれは、おれの恋愛小説が長安風流人士の机の上に置かれているさまを、夢に見ることがあるのだ」
読み専の金玉にとって、李狷の
「他作品で、毎回毎回フォロー、ハート、コメント、★、レビューお願いしますと何行も使って書いているものがある。そのくせ自分はまったくコメント返信しない。私が書いたレビューもいいねされていないままだ……。
さらにその作者が主催する自主企画では、作者はその企画に参加しておらず、なのに『私の作品はこれです! 私の作品を読んでくれた方は優先的に読みにいきます!』と書いてある。
それは作者が★をつけて、企画参加者のランキングが上昇するようにという心づかいなのだろうか? それとも参加者から★をもらって、自分の作品のランキングをあげたいという姦計なのだろうか。わからぬ……余人の考えることはわからぬ……そこまでしてランキングをあげて、だから何だという思いはあった。
だが、今こそいおう。おれはフォロー、ハート、コメント、★、レビューがほしいと。
そうしたらコンテストランキング上位に食い込んで、読み専が増えるかもしれないだろう?
そしておれは、おれの恋愛小説を書籍化して、バカBLというジャンルを確立させたいんだ!」
誰がそんなものを求めているのだろうか……。
「さあ、わらってくれ! 朝四時五時に起きて、ネタ出しに夢中になっていたせいでズーム会議に遅れて、全方位の仕事先に迷惑をかけまくって、血で書いた中華美少年艶笑喜劇をな!」
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・作品・評価シートとは一切関係ありません!?
以下、次号!
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