39 怪しげな薬売りが現れるのこと
杖をついた老人は、この村の村長だった。
金玉たちは、老人を助け起こして家まで連れていく。
「いつから、この村がおかしくなったのか……。
それはもうずいぶん前からじゃった」
彼は椅子にすわって、これまでのことを語りはじめた。
「この村は
わしらはこの村で、代々桃をつくって暮らしてきたんじゃが……。
ある時から、村に病人が増えてきたんじゃな。
体がだるくて、起き上がれない。桃の栽培なんてやりたくない。
一日中、スマホでR18禁二次創作小説を読んで、ごろごろだらだら……」
「あの、倒れてるやつらは何なんだ? だらだらしてるって雰囲気じゃねえぞ」
肝油は、気味悪げにいった。
村長を家につれてくる道すがら、うつろな表情でいる者が何人もいた。
「もとは、みんな働き者だったんじゃ。
だけど病気がどんどん重くなって、どんな薬も効かない。
それで、昼日中からああして、ぼんやりしておるんじゃ。
ああ、この村は呪われているのか――」
「ちなみに、どんな薬を飲んでいるんだ?」
申陽が尋ねた。
「ああ、時々、薬売りの人がやってくるんじゃ。
みんな、そこの薬を飲んどるんだろう。
昨日から、その人が村にきてたはずじゃよ」
「あなたは、薬はのまないんですか」
「わしはアレルギーが出やすい体質だから、薬はのまんのじゃよ」
「なるほど……ちょっと聞いてくる」
申陽は何を思ったのか、ふいと部屋を出ていった。
「ああ、どうしてこんなことになったんだろう。
この村は、世界一の桃の産地だったんですじゃ。
毎年コンテストで優勝して、
「蟠桃会って、なんですか?」
金玉にとっては、初耳な単語だった。
「
土壌のph値の関係で、この村でしか栽培できないんじゃ」
村長は、さらに続けた。
「
その方の誕生日に、毎年、蟠桃会をひらくんじゃ」
桃尽くしお誕生日パーティー、といったところだ。
「蟠桃会で出される桃は、この村でとれた桃と指定されてたんじゃ。
天界の皆さまにも、よくお取り寄せで注文してもらってたのに……」
「西王母さまは、助けてくれないの?」
「そこなんじゃよ。もともとここは、西王母さま個人の農園でな。
わしらはここで、桃づくりをやらせてもらっとるんじゃ。
当然、わしはこのことを天界の役人を通じて報告した。
が、なんの音沙汰もなし……。
もしかすると、わしらは見捨てられたのかもしれん」
「そんなことないんじゃない?」
「今年の蟠桃会の注文も、まだやってこんのじゃぞ。
やっぱり、桃なんて古臭いのかもなぁ……。
最近は、マンゴーとかメロンとか、そっちのほうが人気だときくし。
ああ、このままじゃ、村全体で廃業するしかない……」
村長の嘆きは止まらないのであった。
*
申陽は村をうろうろ歩いて、薬売りの姿を探した。
見つけるのは簡単だった。
村人は大半がぐったりしていたが、一人、大荷物を背負って歩いている男がいた。
やせた書生ふうで、顔立ちはわるくないが、どこか陰気な影を背負っていた。
「もし、そこのお方」
「うわっ、妖怪?」
彼は作中ではめずらしく、一般的な反応を返した。
「落ち着いてください。
私は欧申陽と申す者で、ただの旅人です。
たまたま、この村を通りがかりまして」
「そ、そうなんですか」
薬売りは、まだびくびくしている。
「この村の方々は、みなあなたの薬をのんでいるのですか?」
「まあ、そうですね。ここは田舎で、薬屋なんてありませんから」
「私も旅をしていて、薬が必要な時があります。
少し売ってもらえないでしょうか?」
「ああ、それならかまいませんよ。
これが、うちでいちばん人気の
下痢、食あたり、頭痛、胃もたれ、骨折、虫刺され、二の腕の白いブツブツ、セートレ・ヒョッツェン症候群、ロザイ・ドルフマン病、なんにでも効きますよ」
――効き過ぎではないだろうか?
「ではそれをください」
「はいはい」
申陽は薬の紙包みを受けとると、いきなり開封して、ぺろっとなめた。
「な、なにを……」
「やっぱりな。これは
五石散とは、本来は虚弱体質改善のための漢方薬だった。
だが、ある貴族の子弟が処方を改良して、俗世にいながらにして、夢幻の境地に遊べる薬とした。
つまり、阿片のような麻薬である!
「こんなものを村人にのませてどうするつもりだ?
きさま、ただの薬売りではないだろう」
「へっへっへ……おたく、なかなかのツウですな」
薬売りは、口調をがらりと変えた。
「でも、この村の人間がみんなラリってるからって、どうなんです?
旅人のあんたにゃ、関係ないでしょうが?」
「こんな狼藉をはたらいて、きさまになんの得があるというのだ?」
申陽は、質問に質問で答えた。
「それはちょっと言えませんがね……」
薬売りは、また荷物のなかをごそごそ探した。
「はい、これを差し上げますよ。
「くだらんな。おまえを村長につきだす。ついてこい」
「男にも効きますよ」
――薬売りを捕まえようとした手の動きが、ぴたりと止まった。
「これ、男娼に試してみたんですけどね。もうすごいんですよ。
風俗情報誌の『ゲイもん
読者投票人気ナンバーワンの
あっ、この薬は水に溶かせば無味無臭になるんで、使いやすいですよ。
酒に混ぜて、飲ませたんです。そしたら、すぐに目の色が変わってね。
一晩中スペシャルなサービス尽くし。へへへ……。
それで朝になったら『僕にはあなただけ。タダでいいからまたきて』ってね。
あっしも情にほだされちまってね。帯の交換をしてきたというわけですよ。
この仕事が終わったら、二人でお泊まりデートでも……」
「――もういい!」
ちなみに、自分が身につけているものを交換するのは
『正式な恋人同士になった』という意味合いがある。
「ま、そんなわけですよ。
あんたは何も見ていない。もちろんあっしも同じ。
それじゃあ、ごめんなすって……」
申陽は、媚薬の包みを押しつけられたまま、立ち尽くすのであった。
子授けの薬、精力剤、寝取り薬、今度は媚薬……。
道教世界では、薬はなんでもできるマジックアイテム!
水銀のんで、不老長生だ!(死にます)
以下、次号!
ちなみに「ゲイもん類集」の出典はここである! 一応断っておこう!
https://kakuyomu.jp/users/xka_jiro/news/16818093084975516117
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