4 金玉はまだ見ぬ運命のお相手に思いを巡らせるのこと
金玉は自室の座敷牢のなかで「あーあ」とつぶやいた。
まわりは太い木の柱が縦横に組み合わされている。
もしこれを切断しようとしたら、一日がかりになるだろう。
金玉のもとに、次々とふらちな男がやってくるのを心配した父母が、自室の一角にこの設備を備えつけたのだ。
満月の夜にだけ、この中にいればいいのだが……。
――金玉は座敷牢のなかで、つらつらと過去をふり返っていた。
幼少の頃、金玉のもとにはいろんな動物がやってきた。
犬、猫、イタチ、テン……。
彼らは金玉にすりより、鳴き声を出しながら腰をすりつけてきた。
金玉は「ぼくは動物に好かれるんだな」とうれしく思っていた。
だが、一夜明けるとどうだろう。
彼らは金玉にはまったく無関心で、用はすんだとばかりに山へ去っていくのだ。
――どうやらぼくは、満月の夜だけ、強烈に男(オス)を惹きつけるらしい……。
それに、もう少し大きくなると、男の使用人や男の先生が、金玉におかしな目を向けてきた。
もともと容姿端麗で、男からモテる。
そのうえ満月の夜には、強烈に男を引き寄せる。
ただし、親戚にはその効果はない。血がつながっているせいだろう。
金玉が気安く話せる男性は、親戚しかいなかった。
「ああ、男なんて大嫌いだ! ぼくの体しか見てないんだ。
男は泥の体でできた、気持ち悪いやつばっかりだよ」
――金玉は、極度の男性嫌いになっていた。
その気持ちが高じて、自分の
そう金玉は、未だ一度も達していない
「それに比べて、女の子はいいな。最高だよ。
みんな、ぼくのありのままを見てくれる。
女の子は清らかな水でできた美しい生き物なんだ」
ここで金玉が「女の子」といってるのは、ひげの生えた、力持ちの侍女たちのことである。
身の周りには、そういう女しかいなかったのだ。
「ぼくはぜったい、男には身を許さない。
そんなことするなら、死んだほうがマシだ。
ああでも、どこかに、ぼくの運命のお相手がいるはずだ。
その女性は、きっと素晴らしい人なんだろうなあ」
金玉は「女の人と結婚したい」と漠然と思っていた。
しかし「足首がキュッとしまった、スネから尻にかけてのラインが美しい女性がいい」と希望していたわけではない。
また「真面目でやさしくて、でもベッドの上ではちょいビッチになる黒髪ストレートの女性がいい」と願っていたわけでもない。
金玉は「男だけはイヤだ」と思っていた。
だが「どんな女性がいいのか」をつきつめて考えたことはなかった。
ただぼんやりと、男ではないものに憧れているだけである。
具体性に欠けていた。
ビジョンがない。
自分の性癖がわかっていない。
ただまあ、それは十六なので仕方がない面もあるだろう。
そんな金玉は、まだ見ぬ結婚相手に、思いを巡らせていた。
「ぼくの赤い縄で結ばれた運命のお相手とは、どういう人なんだろうか?」
いずれ彼はそれを知ることになる……思いもよらない形で……。
以下、次号!
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