第22話

「おはよう」


 昨日のことは他言無用。いつもと変わらない様に教室に入った。


 ※


 その日、昨日の事については全く触れられなかった。それどころか、その事件があった事すら隠されて居り、ニュースなどにもなって居なかった。


「花音ちょっと須田借りてもいいか?」


 生徒会室の扉が開き、大柄な男……。品川薫先輩が入ってきた。


「いいわよ。どうしたの……あっ、あれのことね」


「あれのことだ。須田。話がある付いて来い」


「分かりました」


 俺は、生徒会室を出て行く品川先輩の後ろを付いて行く。



「えっと……。どうしたんでしょうか?」


 何も言わない品川先輩に俺は、そう質問する。


「ちょっと待て」


 品川先輩は教室に入ると、さっきの質問の答えを返す。


「須田。風紀の人員が足りない。風紀に入ってくれ」


「……?」


 えっと……。あれ?状況が良くわかんない。なんで、俺にそれが?


「何故俺なのでしょうか?」


 俺がそう言うと、被せる様に品川先輩は答える。


「お前が適任だからだ。簡単な話だろ?」


「いや、だからなんで俺なのでしょうか?他にも、もっと適任がいるでしょうに」


「そう言う建前なんだよ。魔法科に入らないと、魔法の訓練が出来ないからな」


 品川先輩がそう言うと俺はハッとする。


「だから、特例で魔法の使用を許可されている、風紀に……」


 風紀委員会は生徒会とは違い、魔法を使用することが許可されている。理由としては、単純に魔法を使った校則違反者に魔法を使わないと対抗が出来ないからだ。


「物分かりがいい奴は嫌いじゃ無いぞ。取り敢えずは、そう言うことだ。だから風紀に入ってくれ、風紀の仕事自体は、生徒会がある。と言う理由で、休む様にと言う事らしい」


 決めたと言うのは学校の理事会の事だろう。学校としてはこれだけの実力を持つ魔法師を教育もせずに、外に出したく無いのだろう。


 だから生徒会なのにも関わらず、風紀に入れるなんて言うイレギュラーを起こしてまでも、魔法を使わせたいと言う事になるらしい。


「分かりました。風紀に入ればいいんですね。仕事はしなくとも」


だぞ。積極的に仕事はしなくてもいいと言うだけで、目の前で起きた事件だったりを無視して言い訳では無いからな。あと、もしかしたら、事情を知らない1、2年の風紀が何かするかもだけれど、それは諦めてくれ。俺もどうにかはするが、全部は抑えきれないだろうからな」


 俺はその言葉に大きく目を見開き絶句する。


「その気持ちは分かるが、俺にはどうも出来ん。学校が決めた事なのだから」


 品川先輩は、俺の言いたい事が伝わったのか、俺は悪くないぞ。とばかりに言ってくる。


「分かってますって……」


「そうか、取り敢えず行くぞ。形だけでも、仕事は覚えさせなければ」


 俺は表には出さないが、かなり嫌だ。


 教室から出ると、品川先輩は廊下を歩き始める。


 廊下を巡回しながら説明を受ける。


 説明を受けているうちに、風紀ってめんどくせぇ。などと思ってしまった。


 そして、風紀についての説明が一通り終わった頃に、事件は起きた。


「なんやと!だから、ロボ研はダメやねん!」


「うるせえ!そっちが先だろうがっ!これだから、魔導研はダメなんだよ!」


「ああ?だったら勝負できめたろやないかい!」


「良いだろうが!」


 そんな声が外から聞こえてくる。


 声の近くには、沢山の人が集まって居た。野次馬という奴なのだろう


「丁度いい。仕事だ。よく見ておけ」


 品川先輩はそういうと、廊下の窓から


 待てよ!ここ四階だぞ!


 四階という高さなのにも関わらず、躊躇無く飛び降りる品川先輩。


 窓から顔を出すと、無傷で着地して居た品川先輩が早く降りてこいと言わんばかりに手を振る。


 俺は飛翔を使って、丁寧に降りる。


 やだよ、あんなスリルを味わうのは。


 俺が地面に足を付けると、「忘れて居た」と言って、風紀委員の腕章を渡してくる。


「風紀として動くときはこれを付けておけ。そうでないと、今回は俺が近くにいるから良かったが、1人の時にいろいろ面倒な事になる」


 俺はそう言われると、右腕に腕章を付ける。


「風紀委員会だ!」


 品川先輩が、そう言うとロボ研と、魔導研の部員の動きが止まる。


「し、品川!」


 この驚きようこの人色々なことしてきたな。


 俺はそう思った。


 その場は品川先輩が的確に処理した為、割とあっさりと終わった。


 魔法を使われた時に面倒だから、魔法を打ち消す何か作るか……。


 俺がそう思うと、風紀委員会の部室に連れて行くと言われた。


 行きたくねぇ……。事情を知らない1、2年生が何か言ってくるかもなんだろ……。


 俺は憂鬱な気持ちを抱きながらも、品川先輩についていった。

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