第20話

「だったら力尽くで!従わせてやる!!」


 男は懐からナイフを片手ずつに3本ずつ持ち、戦闘する気満々の体制をとる。


「やろうじゃんか」


 英治はそう言うと、笑みを微かに浮かべる。


 男はナイフを3本同時に投げつけてくるが、自動で俺のことを守る、8つの零式のうち3つに弾き落とされてしまう。


 男は、そのことを把握していたようで、顔色1つ変えずに再びナイフを投げてくる。


 それも、同じように弾き落とされてしまう。


 俺は、守ってるだけではつまらないので、細刃をバラバラにして攻めに入る。


 男は軽やかな動きで、50の刃を全て避けながら、懐から取り出したナイフを投げてくる。


「ほう、そこまでの余裕が」


 俺は、細刃の刃を倍の100まで割り、手元に残った持ち手で追尾のコマンドを実行し、自分は魔法を使う準備をする。


「連続展開、炎槍」


 俺がそう言うと、周りに30個ほどの赤い魔術陣が展開される。


 ちなみに魔術陣とは、一部の魔法には必ず必要となる、魔法の発動兆候だ。


 この場合は、炎槍に引っかかったのではなく、連続展開の魔法に引っかかり、魔術陣が出来てしまった。


 上の魔法師となれば、魔術陣を必要とせずに、大規模な魔法を使えるようになるのだが、それが出来る人物は殆ど居ない。


 魔術陣は、下級の魔法師で有るとなると、炎槍や、水刃などと言った簡単な魔法でさえも必要としてしまう。


 魔法師が、無理に魔法を使おうとすると、無意識に現実に干渉し易い形にしてしまうのが、魔術陣と言うわけだ。


 閑話休題


 その間も細刃の刃を前後左右に、時には上下に逃げ、ナイフで弾いたりをすると言う行為を繰り返し、あまり余裕が無くなっている、男はさらに追い討ちをかけられるかのように、魔法陣をされたので、悲鳴にも似た声と共に顔が恐怖に染まる。と言う演技をした。


「電磁」


 男はそう魔法名を言うと、男とは逆の方向の何もない空間に刃が吸い込まれ動かなくなる。


 その瞬間動かなくなっていた刃の、操作が出来ないまま相手の思う通りに動き出す。


 やべっ、細刃取られたのは痛いわ。


 一気に形勢が逆転し、俺が攻められる側となる。


 魔術陣が展開し続けられていた、炎槍は、このままだと細刃も巻き込んでしまう為、使うのを中止する。


 電磁の魔法の派生形である、電磁操によって無理やり動かされている為動きはぎこちないが、大量の刃が飛んでいる為、零式だけでは対処ができず、俺も避ける羽目となった。


 ここで少し豆知識。


 前回出てきた、魔法術式は、魔道具の一種である一定の魔法の発動をサポートするようなもののことを言う。


 今のところ、特化型と通常型の2つがあり、それぞれ特徴を有している。


 特化型は、その名の通り1つか2つの魔法だけをサポートするだけのものとなる。


 詠唱の時間や、魔術陣を使うタイムロスを無くすことが、通常型よりもでき、一定のジェスチャを覚えさせることによって、詠唱を必要とせずに魔法を使うことが出来る。


 以前までは、ジェスチャを覚えることも無理だったし、特化型と言いながらも、通常型とのタイムロスがあまり変わらなかった事から、使うなら絶対に通常型と言う風習がついては居たが、あの真野社長によって、ジェスチャを覚えさせることや、タイムロスの差を広げることができた為、今では、買う側の好みによって選択をすることが出来る程まで成長させた。


 通常型は特化型と同じように、値段などにもよるが、特化型よりも多くの魔法をサポート出来る様に設定が出来る。


 その代わり、ジェスチャを覚えることがあまり困難であるし、特化型と同じ魔法で早打ちをした時に確実に負けてしまうので、沢山の魔法を使い、アドバンテージをとると言う戦法になる。


 そして、なぜこんな話をし始めたかと言うと、男が特化型の魔法術式を使っているからだ。


 根拠としては、電磁を使ったあと、電磁操を使う時に彼の実力では、魔術陣を長い間展開しなければ、発動することが出来ないからだ。


 その時間を消したのが特化型の魔法術式であると言う予想が簡単に立てられる。


 ちなみに、魔法術式は重ねて使うことは一応可能である。


 魔法術式同士が干渉しあい、どちらも発動出来ないなどと言った事を起こす人が殆どではあるが、時たまに複数の魔法術式を同時に使うことが出来る者が居る。


 その為、例を挙げるとなるとこうなると。


 炎槍の魔法は、簡単なので1つ目の魔法術式である特化型で発動時間を短縮して相手への牽制として使い、


 2つ目の魔法術式の通常型で、相手と真逆の魔法を使い相手の魔法を相殺して後に繋げる事をして、


 爆炎などの大きな魔法を、3つ目の魔法術式であると特化型を使い決めに行くと言った、本来魔法師のグループでやるような事を、一人で出来てしまう。


 などと言った器用な事も可能となる。


 いま挙げた例は、複数の魔法術式を使える人の中でも、本当に一握り以下の人しか使えない。


 なぜなら、条件として、3つ以上の魔法術式を同時に使え、相殺のためや最後の決め手となる魔法を使えなければならないし、それ以上にこれだけの魔法を連発できるだけの魔力の持ち主でなければいけないからだ。


 ちなみに俺は魔法術式の扱い方に慣れてないし、あんまりマルチタスクなことは出来ないから。これは一生出来ないままだろう。


 閑話休題


 今は目の前にある、奪われた細刃をどうするかを考えた方がいいだろう。

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