第13話

「撤退したの? 理由は?」


 リーナの問いがいつもよりも人が多い生徒会室に響く。


「分からない。だが、須田が魔法を使える様になった事と何か関係があるのでは? 須田」


 高桑先輩が俺に対して疑問をぶつけて来る。


「やっぱり、あの時誰かと話していた様ですから、それで撤退命令を出されたのでは?タイミングが何とかとも言っていましたし」


「でも、白装束たちは他の場所にもいたのよ。場所によっては、風紀委員の人たちが押されていた人たちもいるし、同時に撤退する必要なんて無いんじゃないのかしら」


 他の場所にも白装束たちは出てきていて、全員が服に反転が仕込まれていたらしい。そのため、殆どが魔法師で成り立っている風紀委員は全く歯が立たなかったチームもあるらしい。


「何かの目的を果たしたから、撤退をしたってこと?」


「それもまだ分からない。けど、ここで分からない事を話していても意味がないと思いますけど」


 リーナの再びの問いに対して、結城先輩が口を開いた。


「それもそうですね。しよりちゃんの様子はどうなんですか?医務室に運ばれたって聞きましたけど」


「医務室の人によれば、応急処置が早かったから、治癒魔法を掛ければ5日で完治する。今は少し休ませておけばいいだろう。だそうです」


 花音先輩の問いに俺は医務室の人に聞いた事をそのまま話した。


「そう良かった。英治くんは何ともないのよね?何かあるなら」


「問題ないです。心配される理由はありません」


 俺は、先輩が全てを言い終わる前にそう返事をした。


 ※


「よっ、しずく」


 魔力切れを起こし、しより先輩同様に医務室に運ばれたしずくを帰り際に迎えに行った。


「あっ英治! 大丈夫だった? しよりんに聞いたんだけど、魔法が使える様になったんだってね」


 そこには、しより先輩と一緒に医務室のベットに座り話し合っていたと思われる二人の姿があった。


「しよりん?」


 突然出てきた言葉に対して俺は、速攻で聞き返してしまった。


 そんなに仲よかったですっけ? お二人さん。


「しよ……。あ、しより先輩のことだよ」


「そうじゃなくて、そんなに仲良かったですっけ?」


「そっか! しよりんは人見知りだっただけで、同級生に先輩呼ばわりされる必要はないって」


 しずくは手を「そっか!」と叩き説明をしてくれた。


「須田くん。ありがとう。私、須田くんのおかげで助かった。魔力切れを起こすまで戦わせちゃってごめんなさい」


 しより先輩は、頭を下げて感謝を伝えて来る。


「大丈夫ですよ。結果として俺は生きているし、魔法にも目覚めることができたんです。結果オーライじゃないですか?」


 俺は首を横に振った。


「しより!」


 医務室のドアが勢いよく開けられ、しより先輩の姉が入ってきた。


「大丈夫だよ。お姉ちゃん。その子が助けてくれたから」


 しより先輩の姉は、そう言われるとこちらを振り返り、俺のことを目視すると、感謝を伝えられた。


「ありがとう。えっと……」


「(須田だよ。須田英治くん)」


「あっ、須田くん」


 妹に教えてもらい、初めて名前を聞いたかの様な反応をしてくれた。


 名前ぐらい覚えておけよ……。俺は覚えてないけど。


 ※


 そのあと俺たちは解散をしてそれぞれの家に帰った。


 今日は流石に疲れたため、家までバスで帰ろうと言ったのだが、しずくはそれを聞かずに結局いつも通り歩いて帰ることになった。


 俺の記憶は、前世であるクロスの記憶の上に英治の記憶が乗っかる様な感じで残っていた。


 本当であればミーシャを直ぐにでも探しに行きたいのだが、しずくの髪や瞳の魔術根がミーシャに似ているため探しに行けないな。


 本人に聞いては見たが、「誰それ?」と言った、私その人知らないという反応をするので、確信が取れないでいる。


 もしかしたら、ミーシャは別の誰かかもしれないし、しずくではあるが記憶を取り戻せていないのかもしれない。


 もし、後者だったとしても、記憶を取り戻させる方法が思いつかないし、前者だった場合は、外見も分からない一人の人間を、見つけなければならない。


 飛翔で飛んで、探すにも手掛かりがないため、不可能であると予想される。なので今は自分の直勘を信じて、ここにいようと思った。


 すごい俺が別人だってばれそうだけど。

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