第12話

 ……。


 魔力切れを起こし、意識を手放そうとしていた俺は、一歩踏み止まり、倒れるのを回避する。


 それと同時に、三体の幽霊が一斉に攻撃を仕掛けてくるが、バロットを使い防御ん図る。


「!?」


 男は、英治から生命活動に必要な最低限の魔力を感じ取れなくなった為、とどめを刺そうとしたのだが、攻撃は届かずバロットに受け止められてしまった。


 俺は、魔力が回復していくのを確認する。


 これは、須田英治。ー否。クロス・アージュリオンが、最強賢者と言われた理由である。


 これは、“マナブースト”と言われる魔力を持つものが、低確率で取得が可能である力だ。


 能力としては、空気中に漂うマナと言われる魔力の素を自分の魔力に変換する力である。


 能力説明なら簡単ではあるが、これを実行に移す事が本当に難しい。


 まず、常に波長が変化し続けるマナに、自分の魔力の器の波長を合わせる必要がある。この時点で大抵の魔力持ちは脱落する。


 次に、そのマナを自分に取り込む事が必要となる。理論上ではマナ、一に対し魔力、一を作れる筈なのだが、どこかで必ずロスが生じて、結果吸収できるのがは10%程になってしまう。


 それだけなら常時展開し続けて、少しでも回復させようと言う事でいいのだが、大抵の魔力持ちはマナの波長と、自分のは波長を合わせるのに、一杯一杯になってしまい、他のことが出来なくなってしまう為、とても実践には使えなくなってしまう。


 それでも、効率よくマナブーストを使える人々もいて、中には25%程まで変換することが出来る人もいる。


 しかし、クロスはこのマナブーストを、最大35%程まで上げることが可能であり、その間、回復のスピードと、簡単な物しか使えないが別の魔法が使える。


 その為、歴代の賢者と言われた人々の中でもトップクラスの力を持っていた。


 ちなみに賢者というのは、その世代の魔女たちの中で、最も強い者のことを示す称号のような者である。


 魔女の国では、魔法主義の国であった為、男女の差による差別などはが特になく、賢者も男も女も、年齢までも関係なく、なることが可能である。


 初代から三代目までは、アージュリオン家の末裔が、賢者の称号を持っていたのだが、力のコントロールに慣れた魔女たちが、アージュリオン家の力と拮抗し、4代目からは、他の家の賢者も増えていった。


 閑話休題


 俺は、回復した魔力を使った。


「炎連」


 左手を前にだし、短く詠唱を唱えて魔法を使う。


 そうすると、掌から炎が螺旋状に渦を巻きながら出てきて、男に向かって飛んでいく。


 男は〈ゴースト〉を解除して、防御だけに集中する。多重に展開された魔法障壁と、いきなりの奇襲攻撃であった為、力足らずの魔力が注がれた反転によって、少し勢いは減少したが、完全に消すことまでは叶わず、炎連に包まれてしまった。


 それを見て待機しろと言われていた白装束たちも、戦闘態勢をとり男を守るようにして立つ。


 体が燃えがっていた男は、上から魔法で生成した水を掛けて消化し、白装束の一人が治癒魔法を掛けた。


「てめぇ、なんで魔法が使えるように! それになぜマナブーストまで使える? 魔工ではなく魔法科に入るのが普通だろうが!」


 今にも襲ってきそうな男は、率直な疑問をぶつけてはくるが、そんな事は俺にも分からない。


 なぜこのタイミングで、魂を取り戻したのかも分からないが、今はそんな事よりも、目の前の敵を倒さねばならない為、その疑問を頭から引き離す。


 治癒魔法を掛けられ、火傷を治した男は、一人でやるなどと言った、怠惰な真似はせずに、白装束たちも使って勝負を挑んでくる。


 白装束たちは言われた通り、次々と魔法を俺に飛ばしてくるが、黒いバロットには、相手同様反転の魔法陣が付けられているので、魔法は無効化された。


「しより先輩は」だって?


 答えは簡単だ。白装束の一人が、連れ去ろうとしてたから、ちょうど良いやとか思って、今さっきバロットで、突き飛ばして回収した。


 ちなみに今は、俺の後ろの廊下の壁に持たれさせている。


 床に叩きつけられたのが相当痛かったのか、肋骨を何本か折っていて、気絶していた。


 今の状況では、応急処置にしかならないが、治癒を掛けては置いた。


 取り敢えず今は、あいつを倒さないとな。


 俺は再び魔法を唱える。


「水刃」


 そう詠唱をすると、俺の周りに三日月の様な形をした高圧力の水の刃が3つ現れ、それを男たちに飛ばす。


 しかし、ただの水刃であると反転で消されてしまうので水刃の中に、注ぎ込む魔力をゼロにした刀型のバロットの一部を入れる。


 その間も、絶え間無く魔法が襲ってくるが反転で残さず処理をする。


 相手の魔法が少し緩和したタイミングで、水刃を同時に放ち白装束に当てる。


 流石に水刃によって体が2つになってしまうのは、気持ちが良いわけが無いので、反転で打ち消せるように調節をした為、白装束たちは水刃を打ち消し、その中から出てきたバロットに対応が出来ず、全員倒れてしまった。


 殺すことは禁止されていたし、グロいのも見たく無いのでとった行動だ。


 まんまと俺の策略に引っかかり、倒れてくれた白装束たちはほおって置いて、黒い盗賊のような格好をした男に狙いを定める。


「やってくれたじゃねぇかっ!? 俺が一番最後ってか? 上等だ! 受けてやろうっ!」


 男は再び、今度はゴーストを5体出して、先ほどよりも強い殺気を放ち戦闘態勢を取る。


 男が目つきを鋭くして、拳を前に突き出すと同時にゴーストたちが、一気に攻め込んでくる。


 俺とゴーストの距離が近づいたその瞬間、ゴーストが空中で霧散した。


「なんでだよっ!? 今からだろうが! タイミングってものがあるだろうが!」


 男が耳に指を当てて、猛烈な叫び声を上げる。


「くそッ……。次に会うときは必ず殺す! それまで首を洗って待っていやがれっ」


 男は渋い顔をし、殺気をさらに高めながら、地面に転移の魔法陣を描き、それに倒れている白装束も一緒に落ちていった。


 いきなりの出来事に少々の驚きを覚えながらも、俺は長い間放置していると死んでしまう、しより先輩がいる事を思い出し医務室に運ぼうとする。


 骨は辛うじて繋いではいるが、治癒の魔法が得意で無い為、実は大切な内臓が傷ついていて、危険な状況に陥る可能性は普通にあり得る。


 俺はしより先輩のことを背負い上げ、バロットで補助をしながら医務室に運ぶ。


 この時、しより先輩が身長が高く無い方で良かったと思う事になった。

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