第11話
※side???※
私は、彼を見た瞬間に心臓のあたりが跳ね上がり、鼓動が速くなった。
※side???※
一目見た瞬間俺は、彼女の美しさに見惚れてしまった。
「君の名は?」
「貴方の名前は?」
そう相手に聞いたのは同時だった。
「俺は」
「私は」
そして、答えるのも同時だった。
俺たちは微笑み合う。
こういう物は、魔女の国では女性から名乗るのが当たり前で、男性から名乗るのはとんでもなく失礼に当たる事のため、「どうぞ」と言って彼女から名乗らせる。
「私は、ミーシャ・ファン・スタージアンです。以後お見知り置きを」
彼女もとい、ミーシャはドレスの両端を摘み上げ、お辞儀をする。
「僕は、クロス・アージュリオンと申します。此方こそ宜しくお願いします。ミーシャ様」
俺は、魔女の国の挨拶ではなく、あちら側の国、所謂人間の国と言われる国のお辞儀をして答える。
「様は要らないですよ。クロス様」
「そうですか、分かりました。ミーシャ。あと、僕の事もクロスとお呼びください」
「分かりました。クロス。あとクロス別に無理しなくてもいいのよ。わざわざ、俺から僕に変えなくても。一番最初に名前を聞いた時に、『俺は』と言って居るのをちゃんと聴き取りましたから」
「ありがとう。ミーシャ。流石にお姫様相手だと言い直さないとと思いましたから、肩の荷が下りたようです」
「それ以前にクロス。貴方、慣れていないですね敬語を使う事を。難しいなら辞めてもいいですよ。今の私はお姫様ではなく、家出をしてきて来ただけの娘ですから。あと何故私の事を?」
どうやら、俺が堅苦しい敬語が苦手で全く使っていなかった事もお見通しらしい。
「お言葉に甘えて。俺は時々彼方へ遊びに行っておりましたので、何度か耳にする事も有りましたし、パレードで見た事も有りますから」
流石に初対面の相手にタメ口全開で喋るのは良くないと思って居るため、一応『です』や『ます』はつける用にした。
「そうでしたか。でしたら私の先輩という事になりますわね。一昨日ぐらいにこの横穴を見つけまして、もしかしたら魔女の国に繋がっているかもという好奇心で、今日時間を見つけて王城を抜け出して来たんです」
※sideミーシャ・ファン・スタージアン※
「はぁ……はぁ……はぁ……」
私は、元人間の国の路地裏を息が切れて、口から血のような味がしても、苦しくても走り続けた。
後ろから、追いかけてくる魔法師から逃げるためである。
きっと、クロスなら助けてくれる。きっと……。
私はそう思い続けながら、走り続けた。
※同時刻sideクロス・アージュリオン※
やばい、急がないとやばい。
先程、ミーシャからこのガラケーと言われる機械に、『助けて』と言うメールが送られて来た。
そのメールが来た時は、丁度俺にも、人間側から襲撃を受けて、向かうのに少し遅れてしまった。
今俺は、ミーシャにつけた追尾という魔法を頼りに、飛翔の魔法を使い空をフルスピードで飛んでいる。
追尾の魔法が、指している地点に到着をし、急いでその路地に入ると、魔術根が深く刻み込まれている、ミーシャが倒れていた。
「み、しゃ……? みぃしゃ?」
今置かれている状況を理解が出来ず、何かが喉に詰まったかのように、うまく声が出ない。
横たわっているミーシャには外傷が見られず、特に持病なども持っていない為、死ぬのは普通はおかしいが、これが魔術である。
残った魔術根を見ると、「泥呪」の呪いがかかっていた。
この呪いは直接、対象に術者が触り、詠唱をして呪いをかける必要がある為、かなりの手練れで詠唱をかなり詠唱を短縮出来るか、詠唱を出来るだけ触れ続けることが出来る、ミーシャに信用されている人だけとなる。
泥呪は、さっきも言った通り対象に掛けるのに時間が、必要な代わりに、ほぼ100%で対象に死をもたらす。
なので、手練れの暗殺者達などには多用されている。
俺はミーシャの隣で膝が立つ力を無くし崩れこむ。
ミーシャの右手を両手で、優しく握る。
俺は今すぐにでも泣きそうなぐらいに感情が込み上がってくるのにもかかわらず、涙が出ない。
そんな時、脳裏に一つの魔法名が浮かぶ。
それは、代償魔法の一つの「蘇生魔法」だ。代償を払い、死んだ人を助けることが出来る。
蘇生魔法は、魔法の中では相当な禁忌とされており、使うこと一切を禁じられている。
それはやってはいけない事だと何度も頭から振り払っているのに、どうしても、目の前に広がる光景を見ていると、その事を忘れられない。
そんな事をしているうちに俺は無意識に、指で魔法陣を描いていた。
頭ではやってはいけない事だから、詠唱をやめろと言うのだが、口がそれを聞こうとしない。
長い詠唱が終わり、魔法が発動する。
俺が立っていたのは、何処とも知らない、不思議な感覚の世界だった。
「少年、此処は本来君のような子が来るところではないのだけれど……。まぁ良い、願いは何だ。聞き届けようではないか」
俺はその言葉を聴き、何のためらいもなく発言する。
「ミーシャを、ミーシャ・ファン・スタージアンを生き返らせてくれ!!」
「分かってるな? 代償を貰うぞ?」
俺は大きく頷く。
俺は目を開けると、大きな血溜まりが出来ていた。
よく見ると自分の手と、足がない。片手と、片足が付け根から無くなっていた。
斬り落とされたなどでは説明が出来ないほど、痛みすらも感じないほどに綺麗な断面となって。
代償はこれだけなのか?人を生き返らせるのなら、もっと代償が……。
俺が、ミーシャと目を合わせると、其処には金髪で青い瞳を持った。可愛らしい女の子ではなく、白い髪と赤い瞳を持った、女の子が居た。
何でだ? 何で生き返らない? 蘇生魔法は?
俺の頭の中には沢山の『?』が浮かび上がって居た。
「また来たのか? 言いたい事は知って居るぞ、なぜ生き返らなかったのか? という事だろう? 答えても良いのだが、また代償を必要とするぞ?」
俺は、深く頷きこう叫ぶ。
「早く教えろ! ミーシャは何で!?」
「誰も、この時代に蘇生するなどいっていない。転生ってことだよ」
其奴は、不気味な笑い声を上げて俺のことを見送ろうとする。
「ちょっと待て! 転生した後の世界には俺は居るのか?」
「いないよ」
其奴は、俺の質問に対し即答する。
「だったら俺の事をその世界へ連れてけ」
「それも代償が居るよ? 今度こそ、命を代償に。それでも」
「それでもだ!」
其奴が全てを言い終わる前に俺は、返答をした。
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