第5話

 俺は、昼ごはんを食べ終わると、鞄から予め取り出しておいたタブレットを操作する。


 しずくは、お皿を魔導式食洗機に入れてこちらに戻ってくる。


 本来であれば、料理も食材などを入れれば自動で作ってくれるのだが、しずくは手作りがいいらしい。


「なんか新しいものあった?」


「特になし、教科書とかは専門書を分かりやすくしただけだし、専門書を読んだ方が知識としてはあるな。ただ他の教科についてはぎりぎりついてけるレベルだな。特に国語が……」


「まぁ、物語の中から登場人物の気持ちを書き抜けとかそういう問題苦手だもんね」


「説明文だったり漢字だったりは、問題ないんだけどな……やっぱり、古文だったり物語だったりがきつい。で、しずくはどうなの?」


 俺の隣に座り、同じ様にタブレットを操作しているしずくに聞く。


「私も特に無いかなぁ、相変わらず魔工については全然わかんないままだし」


「やめて、しずくが魔工を出来るようになったら俺の存在意味が無くなる」


「そっかぁ、でも英治の発想力は真似ができないと思うけどな、私は」


 しずくは、笑いながらそう答える。


 ※


「あ、もうこんな時間だ……」


 俺は、しずくに言われて時間を確認すると、時刻は19時を回っていた。


「ほんとだ」


「私、ご飯作るね」


「分かった」


 そうやって短いやり取りをして、背もたれもたれ天井を見る。


 時間としては、1時ぐらいから7時まで、休まずに勉強をしていた事になるが、教科書を全教科分、頭にインプットして補助教材を一通り終えたのでそれぐらいの時間は掛かるのは不自然ではないだろう。


 勉強自体は苦では無いので、問題はないが、長時間同じ姿勢でいた為、体が痛い。


 俺は、指を「パチン」と鳴らす。


 そうすると、何もないはずの空中が歪み、黒い球体が現れる。


 これは“バロット”と呼ばれる魔道具だ。


 バロットには様々な種類があり、何処にでも売っている汎用型のもあれば、世界に1つしかないようなオーダーメイドの物もある。


 その為バロットにも、ピンからキリまで存在する。


 このバロットは自らの手で作り上げた、唯一無二のバロットだ。


 このバロットには光学迷彩が付いている為、目に見えるようになる時に世界がそこだけ歪んだように見える。


 そしてこれには、しずくに頼んで作って貰った反重力の魔法陣を組み込んでいて、空中に浮かすことが出来る。


 それと反重力の魔法陣を起動している間漏れ続ける魔力を外部に漏らさないように、魔力遮断の魔法陣も組み込んでいる。


 バロットには、魔力を貯めておく魔法陣などもあるため、反重力の魔法陣用の魔力はそこから供給している。それでも、反重力の魔法陣は、とんでもない量の魔力を使うのだが、そこは俺の膨大な魔力を使っている為枯渇する事はない。


 酷いよな、魔力は沢山あるのにも関わらず、全く魔法の才能がないなんて。


 それの所為で魔法陣の作成は、全てしずくに任せる他無くなる。


 しずくには、ご飯も作って貰っているし、あまり負担にはさせたくない。


 まぁ、このことを言ったら、「全然そんなことないよ」とか言ってくれたんだけど。


 俺はバロットの中から工具と、「C」の形をした黒いものを取り出すと、それをさっき取り出した工具で弄り始める。


 リビングには、何かを焼いている音と、機会を弄る時の「カチャカチャ」という音だけが響いた。


 ※


「流石に、今日は歩くのは無理だぞ」


「いやいや、歩くよ昨日の帰り道で分かったから、たった1kmで疲れるようだったら、学校の体育の時間とか死んじゃうよ。だから歩こう」


「いや、無理だからバスかなんか使おう」


「それじゃあ、レッツゴー!」


 しずくは、俺の手を掴み引っ張る為、俺も歩く羽目になった。


「そう言えば、昨日はそのバレット持ってきてなかったけど、今日は許可とったの?」


「あぁ、取った。バロット所持の適当な理由を作って、タブレットで先生のアドレスに飛ばした」


「そう、なら良いや」


 セントチュアリーに近づいてくると、俺たちと同じ青い制服をきた人が増えていった。


 そして、そのセントチュアリー生が、チラチラと俺たちに視線を向けてくる。


「そこまで、俺たちに視線が集まる理由はないよなぁ、はぁ」


 俺は溜息をついて、校門をくぐる。


 ※


「おはよって、どうしたんだい須田?」


「家から1km歩かされた」


 机にぐったりともたれ掛かり、疲れ切っている俺に対して鳥島は笑う。


「1kmってちょっと歩くだけじゃないか、てゆうか家近いね。この辺りの土地はセントチュアリーがあるからかなり高いのに」


「その家が近いのが理由で、歩かされたら意味が無い」


「あはは」


 鳥島は席に着き、タブレットを机の上に出す。


「一通り、教科書とか読んだんだけど、ほとんど分かんないや、中学までの勉強は簡単だったけど、一気に難しさが増したね、須」


「全部分かった」


 鳥島が全てを言い終わる前に短くそう答えると、鳥島は、目を大きく見開き絶句していた。


「それは、まじか? 何個か問題出しても分かるのか?」


「あぁ、分かる」


 鳥島はタブレットを操作して、適当な問題を出す。


「魔法回路において……」


「鳥島くん、それは後にしてもらえます?」


 それを遮ったのは、他でも無い本藤先生だった。


 教台にはすでに本藤先生が立っており、クラスメイトも皆席に着いていた。ホームルームの開始の鐘が鳴っていたのだろう。


 恥づかしそうに、前を向き直した。


「じゃあ、ホームルーム始めるから、今日は、60分の6限目まであります。特に移動教室などは無いから詳細はタブレットを見て下さい。あと、須田くんバロットを研究目的に持ってきたんだってね、今か、後で見せてもらえる?」


 ホームルームは、挨拶などがあるがこの先生は、しないタイプらしい。それは、全然良いし、逆に挨拶なんて時間の無駄だとずっと思っていたから丁度いい。


 ホームルームが終わると本藤先生に、バロットを提出する事になった。


 正直言って、バロットについては報告しなくても、バレることは無いだろうが、報告しなかった時のしずくが怖いのと、万が一にもバレるかもしれないという事も有り得るから、一応は報告をした。


 決して、前者が怖かったからでは無い。


「自作のバロットらしいわね、見せてもらえる?」


 俺は、バロットの光学迷彩を解除して、先生の前に出す。


「これが、報告をしたバロットです。機能としては、魔力の貯蔵庫としての機能と、収納の機能と、タブレットよりも少し強い魔法を放てるぐらいです」


 嘘です。魔力の貯蔵庫しての機能と収納の拡張についての事は合っているけど、魔法については、上級魔法と言われる魔法をいくつも使うことが出来る。


「そう、なら良いですよ、見た感じ特に何も無さそうですし」


「有難う御座います」


 ※


 最後の授業が終わり、帰りのホームルームが終わる。


「結局部活動見学一度も来なかったけど、須田どうするんだ?なんの部活に入るんだ?」


 入学から一週間が経ち、部活動見学が終わる。


「中学生だから免除された。運動部となると体の作り的に、難しいからって言われて、魔工研究部とかだと知識がありすぎて、他の人の機会を奪うからって言われて、もしもしたく無いのなら、しなくても構わないって言われた」


 これは本当のことで、昨日校長に呼び出された時に、しずくと一緒に聞かされた。しずくは部活に入るらしいが。


「俺は、セントチュアリーの秘蔵図書でも読んどくよ、強いて言うならば、読書部とでも言うのか?」


「まぁ、なんか良かったな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る