第4話

 俺は階段を降りきり、自分の下駄箱を開けて靴を取り出し、正門へと向かう。


 校庭からは、運動部の掛け声が聞こえる。

 部活見学なのもあり、校庭にはかなりの人が集まっている。


「あ〜もうめんどいなぁ。あれ使うか……」


 道が人で塞がれている為、普通に歩いてここを渡る事は不可能だろう。


 俺はしゃがみ、靴の横についているダイヤルを回す。


 そうすると、靴の下に二重の魔法陣が展開され、英治が空中に足を踏み込むと、足は空気を掴むかの様に、階段状に登っていく。


 下の魔法陣は、靴の下に空気の気体の相対位置を固定して膜を一時的に創り出す魔法陣でその上の魔法陣は、その空気の膜をコントロールする為の魔法陣だ。


 俺は全く魔法を扱えない為、魔法陣を作ることが出来ない。なので、しずくに魔法陣を作って貰った。


 俺はそのまま群がっている人の頭上を歩き、人混みを横断する。


「上! 人が歩いてるぞ!」


「あれ、確か今年の新入生代表挨拶の時の奴じゃないか?」


「そうだよ、魔工特進クラスの代表の中学生君だよ!」


 うん、五月蝿いね。ちょっと上を歩いてるだけでそんな珍しいか? 車だって浮いてるじゃないか。


 俺は、人混みを横断し終わると、再びダイヤルを今度は逆に同じ分だけ回して地上に降りて、歩き出す。


 正門に着くと、先ほどとまでとは違い人が一人か、二人ほどしか居なかった。


 えっと……あっ居た居た。


「しずく!」


 俺が名前を呼ぶと、絹の様に白い綺麗な髪をなびかせてこちらを振り向く。


「英治、恥ずかしいからあんまり名前を大声で呼ばないで」


「あぁ、ごめんごめんこれからは気を付けるわ」


 しずくは、俺に笑顔で返事をしてくれる。


「だったら、今度あそこのパフェ奢ってね」


「おまっ、それが目的か……」


「さて、それはどうでしょう?」


 しずくは、人差し指を立てて笑顔で、奢らせてくる。


「とりま、帰るか」


「そうだね」


 俺たちは、足を踏み出した。


「そう言えば英治、今日の挨拶の時、魔道具使ってたでしょ、魔力が殆ど外に漏れない様に、殆ど魔法を使っていない奴を」


 しばらく歩くと、しずくがそうやって俺の不正を暴こうとして来る。


「間違っちゃいないけど、あれでもバレるのか、流石しずくだな。魔法回路を使わずに旧式のブルートゥースを強化して使ってみたんだけどな」


「そんな所に、力を入れる必要は有りません。そんな時間があるなら、原稿を覚えなさい」


 しずくは、「ふふふ」っと言って笑う。


「作る方が楽しいし、そもそも原稿を覚えても忘れるから、復唱した方がいい」


「まぁ、良いけどね全然、そう言えば、英治は部活なに入るの?」


「入らないっていう選択肢はないんだよな」


「だったら部活を立ち上げちゃう?」


「何の部活を作るんだよ」


「何のだろう?何だと思う?」


「自分で言っときながら、人に振るなよ」


 俺はそう言いながらも顎に手を当てて考える。


「魔工学部とか?」


「それは、もうあるでしょ」


 二人でそんな話をしながら家への帰り道を歩くのだった。


 ※


「はぁー、着いたぁー」


 俺はリビングのソファーに倒れる様に寝転がる


 初日だからという理由で、1kmぐらいを歩いたのだが、移動は何時も魔道具を使うかしていたので、ここまで純粋に歩くことがなかった為、運動不足も相まってとんでもなく疲れた。


「制服で寝転がるとしわが付くよ、英治」


「別にしわなんて、付いてもすぐ取れるし、この制服そんな簡単には付かないだろ」


 俺はそう言いつつも、二階の自分の部屋へと向かう。


 親は二人揃って海外に行っている、仕事なので強くは言えないが、世間一般的に小学生を一人、家に置いていくのはどうかとも思う。


 俺は、集中するとまともにご飯を食べないくなる為それの、面倒を見るのがしずくだ。


 しずくは面倒見もいいし、俺の親からも信用されているし、しずくのお母さんと、俺の両親は仲がいい為、セントチュアリーの近くに引っ越してきた時についでだからと言って、同居にさせられた。


 それに対して特に不満は無いが、やはり中1の男女を誰も居ない、家に二人で住まわせるのはおかしい。どちらかが変な気を起こさないとも限らないしな。


 起こす気は全く無いけど。


 俺は、制服から普段着に着替えて、リビングに戻る。


 しずくも同様に制服から普段着に着替えて、キッチンに立ち昼ごはんを作っていた。


「クラスはどうだった?」


 俺は、料理をしているしずくに声を掛ける。


「別に何にもなかったよ、ちょっと人数が5人で少なかったけど。そっちは?」


「こっちも特になし、人数は10人で例年よりも多いみたいだが」


「そっか、10人も居たんだ、私のクラスちょっと人数が少なくて残念」


 しずくは残念そうにしながらも、料理をする手は休まない。


「何も無いなら良かった。髪とか、目の色とかで何も言われてなくて」


「そんな気味が悪いかもだけど、わざわざ高校まで行ってそんなこと言う人はいないよ。小学校ならまだしもね」


 この世界に置いて髪の色は、殆ど意味がないと言われては居たが、白だけは別だ。


 白と瞳の血の様に赤いのは、魔女の世界に置いては忌み子を表している。


 どちらか片方ならば、まだ問題は無かった。しかし、それが両方であったのがいけなかった。


 忌み子は、文化が進むにつれて薄れつつは有ったが、いざ産まれるとなるとやはり人間というものは、水に流し切ることが出来ないらしい。


 中には遺伝子を組み替えて、別の髪の色にすればいいなどという考えはあるかもしれないが、そんなものはとっくに試した。


 しずくの両親は、生まれた時に髪と、瞳の色を変えようとしたが、魔術根が深く根付いており、色を変えることが出来無かった。


 それにより、不気味さが増してしまった。


 何度かしずくは俺に対して、「髪の色とかが気味が悪くはないの?」とは聞かれたが、何故か悪い気分にはならない。それどころか、懐かしささえも覚えてしまうのだから。


「ご飯出来たよ、英治」


「ん? あ、あぁ」


 俺は、しずくのその一言で現実に引き戻された。

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