第23話:思わず本音がこぼれました
絶体絶命になり、クレアの口から思わず飛び出たのはアーロンの名前だった。
(こんなときに私――)
「クレア!!」
聞き慣れた声が上から振ってきた。
「アーロン!?」
「どこだ!?」
「斜面にぶら下がって……」
頭上にアーロンの顔が見えた。
「な、なんであんたがここに――」
「話は後だ!」
アーロンが手を伸ばし、木の根をつかんでいるクレアの腕をつかんだ。
ずるっと足が滑った。
ぐっと腕に力がかかる。
「うぐっ!」
アーロンが苦しげに顔を歪めた。
「アーロン! 離して! あんたまで落ちちゃう!!」
「うるさい!」
アーロンの声にクレアはハッとした。
「絶対に離さない! 上がってこい!」
アーロンの決死の表情に、クレアは覚悟を決めた。
アーロンの腕を思い切りつかんで這い上がる。
「よし!」
アーロンに引き上げられ、クレアは無事に地面に戻れた。
「いたた……」
クレアは腕を押さえた。
腕が
「あんたは大丈夫? 脱臼してない?」
「平気だ。おまえとは鍛え方が違う」
憎まれ口を叩きながら、アーロンが腕を押さえている。
(痛そう……)
「ご、ごめんね。私――」
言いかけたクレアの鼻先をひゅっと矢が通過していった。
「ひっ!」
飛んできた二本目の矢を、剣を抜いたアーロンが真っ二つにする。
(すごい! 私を引き上げて、もう腕の力ないはずなのに……!)
「行くぞ!」
「また暗殺者!?」
「そのようだな」
アーロンに手を引かれ、クレアは身を屈めながら森を移動した。
「アーロン様!」
馬に乗ったケネスたちがやってくる。
「ご無事でしたか!」
「ああ、なんとかな……」
騎士たちに囲まれ、クレアはようやく息をついた。
「あんた、馬鹿でしょ……王子なのに、愛人のために命かけるなんて」
「うるさい」
クレアは有無を言わさず抱きしめられた。
「無事でよかった……」
クレアの肩越しに、アーロンが安堵のため息をつく。
「うん……」
アーロンから体温が伝わってくる。
クレアはそっとアーロンの背に手を回した。
「あの、手当てを……」
言いづらそうにケネスが声をかけてくる。
「ああ、そうだな。城に戻るか」
「うん」
クレアとアーロンは自然を手を繋いでいた。
(なんだか不思議……当たり前のように手を繋いで歩いている)
(すごく自然……)
ウィリアムにはエスコートされたことはあっても、こうやって何気なく手を繋いで歩いたことなどなかった。
(これが……もしかして本当の恋人同士なのかな?)
むずむずと胸の奥がかゆくなる。
(なんで?)
(私、今まで一度もそんなこと――)
クレアは口を開けた。
「指輪がほしい」
ぽろっと思いがけない言葉が飛び出した。
「え?」
アーロンが驚いたようにクレアを見てくる。
「私、あんたから指輪がほしい」
アーロンがぐっと唇をかんだかと思うと笑い出した。
「そうか、ではすぐ作らせる」
「そんなにおかしい!?」
笑い続けるアーロンをぎっと睨む。
こちとら、勇気を振り絞って言ったというのに。
「おまえ、俺が言ったことを覚えているだろうな?」
「え?」
少しして思い出した。
「ああ、あれ……」
――指輪はいいな。俺の女だという証だ。
(そう言えばそんなこをと言っていたな……)
「いいのか、おまえは」
「何が? 私は指輪が欲しいって思っただけよ」
クレアはぷい、と顔を背けた。
どんな顔をしてアーロンを見ていいかわからなかったからだ。
「投げ捨てるなよ」
「わかってる!」
アーロンがぎゅっと力強く手を握ってきたので、クレアも負けじと握り返した。
(嬉しそうな顔しちゃって……)
アーロンの上機嫌な横顔をクレアはじっと見つめた。
自分の選択がどんな未来を運んでくるのかわからない。
だけど、きっと後悔はしないだろう。
婚約破棄された腹ペコ令嬢ですが、隣国の冷酷王子に溺愛されています 佐倉ロゼ @rosesakura
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