第21話:王子の意外な一面を知りました
アーロンに問われ、クレアは慌てた。
「いや、あんたってすごい人なんだなって……」
アーロンがくすっと笑う。
「別にすごくなどない。ただ、このまま行くと王位を継承するってだけだ」
「それがすごいんじゃないの!! こんな大きい国を治めていくんだよ!?」
「昔から、そのために勉強してきたからな」
アーロンの口調には気負いがない。
もうとっくにアーロンには覚悟があるのだろう。
「他になり手がいたらいいんだがな。誰もいないなら、俺がやるしかない」
「王になりたい訳じゃないの?」
「わざわざ大変な苦労を
「第2王子はどうなの?」
アーロンの母は第2王子のノーマンに継がせたがっており、そのために暗殺者を送ってくると言っていた。
「ノーマン王子に王位を譲ったら、安心して暮らせるんじゃないの?」
「そうできればよかったんだがな」
アーロンがふう、とため息をつく。
「あいつは民を単なる労働力としてしか見ていない。子どもの頃から一緒に帝王学を勉強してきたが、あいつはいかに民から税や労働を効率よく搾り取るかしか考えていなかった」
「……」
民の立場からしたら、反乱を起こしたくなる考えだ。
「だから俺は……」
アーロンが苦しげに目をつむった。
「アーロン!?」
「どうなさったんですか!?」
果物を持ってきたミッシーが駆け寄ってくる。
「平気だ……少し目眩がしただけだ」
「無理なさらず、休んでください!」
ミッシーがアーロンを寝かせる。
「クレア様はご退出を。あとは私たちが看ますので」
「……」
苦しげにベッドに横たわるアーロンを見た。
「私もここにいていい? もう邪魔しないから……」
クレアはしょんぼりとうつむいた。
「わかりました。もし具合が悪いようでしたら、呼び鈴で知らせてください」
そう言うと、ミッシーは部屋から出て行った。
クレアはベッドの脇に置いてある椅子に座ると、じっとアーロンの寝顔を見つめた。
(今なら……彼を殺せる)
(逃げ出すことだってできるわ……)
だが、クレアはふきんを水に浸してぎゅっと絞り、アーロンの額に置いた。
「隙だらけじゃない……」
クレアはぽつりとつぶやいた。
「早く元気になって、
クレアはじっとベッドの脇でアーロンを見守った。
*
一時間がたった頃、アーロンが苦しげに身をよじった。
「アーロン? 大丈夫?」
アーロンの顔には汗が浮かんでいる。
「ど、どうしよう……」
呼び鈴を鳴らそうかと逡巡していると、小さなつぶやきが耳に入った。
「母様……」
幼子のようにアーロンが手を伸ばす。
クレアは反射的にその手をぐっと握った。
「大丈夫、大丈夫だよ!」
クレアの声が届いたのか、うなされていたアーロンの呼吸が穏やかになった。
(お母さんか……)
実の母親から暗殺者を差し向けられている、とアーロンは言っていた。
アーロンは平然としていたから聞き流してしまったが、母親から死んでほしいと思われるのはどんなにつらいだろう。
何か
(でもきっと、憎みきれないんだろうな……)
アーロンの口調からは、母に対する憎しみは感じられなかった。
(夢の中でしか呼べないのね、お母様のことを……)
弱みを見せられる相手がいない、と以前話していた。
だから、愛人が欲しかったとも。
(その相手に私を選んだの?)
(馬鹿正直でわかりやすい――だから、安心できたの?)
少しずつアーロンのことが見えてきた気がした。
アーロンは最初から寝室を一緒にすることにこだわった。
嫌がっても決して譲らなかった。
(あれは寂しかったから……?)
「不器用なのはどっちよ」
クレアはそっとアーロンの黒い髪を撫でた。
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