第4話:王太子の城に着きました

 馬車で三日かけて、クレアはミッドガンド王国に辿たどり着いた。

 途中の町や村で宿泊したり、道中休憩したり、といろいろ逃げる隙はあったが、そのたびに美味しい食事やおやつを振る舞われ、なんとなく逃げるタイミングを逸していた。


「おまえは食うものさえ与えていれば、満足そうだな……」


 挙げ句に、アーロンに呆れ気味に言われる始末だ。


「はあ!? 舐めないでよね? 私だって、貴族の令嬢! ドレスとか宝石とか……」


 言いかけてクレアは止まった。

 ドレスにも宝石にも全然興味がない。


「ドレスや宝石が欲しいのか。買ってやろうか?」

「誰があんたなんかに!」

「ここの名物は豚の串焼きだ。食うか?」


 クレアはぐっと詰まった。

 もう一度来られるかわからない旅先での食事は貴重だ。


「た、食べるわよ!」


 くすくす笑いながら、アーロンが屋台で串を買ってくれた。

 手渡された焼きたての肉に、クレアはかぶりついた。


(ふお! 濃厚な味で美味しい~)


 クレアは肉を咀嚼そしゃくしながら、品良く肉を食べているアーロンを見つめた。


(思ったより、怖くないかも)

(ううん、油断は禁物よ!)

(前世で処刑されたのは、18歳になる直前だった)

(無事に18歳を迎えるまで、気を引き締めなきゃ!)


 もりもり道中の旅飯を楽しんだクレアは、とうとうミッドガンド王国に足を踏み入れた。

 目の前の丘に堅牢な壁に囲まれた城が見えてくる。


「あれが俺の城だ」

「へええ……って、王城じゃないの?」

「ああ。父たちが住む王城は別にある」

「そうなんだ……」


 見たところ、アーロンは20歳かそこらだろう。

 その若さで城を一つ構えていることに、クレアは少し驚いた。


(ミッドガンドだと普通なのかな……)


 さすが戦争の歴史が長かった国だけあり、城は厳重な警備が敷かれていた。

 あちこちに武装した兵士や騎士が忙しそうに歩いている。


(うわ……戦いに特化した城ね)


 城門の上にも兵士たちが並び、侵入者がいればすぐさま矢で射かけたり、石を落としたりする準備は整っている。

 不安になったクレアは聞かずにはおれなかった。


「ねえ、今は戦争は落ち着いてるのよね?」

「ああ。周辺国の統治も終わった。今、動かしている軍はいない」

「そう」


 クレアはほっと胸をなで下ろした。


「だが、安全とは言えない。おまえも心しろ」

「えええーーー!? そんな!」


 抗議の声を上げるクレアに微笑みながら、アーロンが城に足を踏み入れる。


「お帰りなさいませ、アーロン様」


 ゆったりとしたホールに、ずらりと並ぶ兵士や使用人たちが頭を下げる。


「留守番、ご苦労」


 軽く声をかけると、アーロンが廊下を突き進んでいく。

 幅広の階段を上がって二階に行くと、奥の部屋のドアを開けた。


「ここが俺の私室だ。隣の寝室と繋がっている」

「わあ、広いのね」


 それこそパーティーでも開けそうな部屋に感嘆する。

 執務用の机の他に、ソファやテーブルといった応接セットも置かれている。

 さすが、城主である王子の部屋だ。


「ふーん、素敵ね」

「今日から、おまえの部屋でもある」

「はあ?」


 クレアは驚いて振り返った。


「おまえは俺の愛人だからな。一緒に住むのは当たり前だろ」

「あ、愛人!? そんなの聞いてないんですけど!」

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