第五話 互いの相方の話

 入口はとても立派で暖簾が掲げられている。

 駐車場には平日にも関わらず車が多い。玄関までの道はどこかの旅館のような作り。湊音ここを訪れるのは数年ぶりであろう。高校教師をしていた頃、剣道部のメンバーと行ったきりであろう。その時はシバはいなかった。

「結構小綺麗な感じになったなぁ」

「うん、たしかにね。そうでもしないと飽きられちゃうよね」

「俺は超久しぶりかなぁ、誰かと」

 シバは誰か、というのが思い出せないようだ。湊音はピンときている。シバはかなりの女性との交流があったことを。一人でこういうところには行かなさそうだというのも知っている。

 誰だろうというのは探ってもいい気持ちにはならないだろうっていうのも湊音は知っている。

 シバもその湊音のことを気にしてか

「誰かわからんけどもまずまずジュリとはこういう銭湯行けないしさ」

 と話を切り替える。

「そうだよね、僕もだよ。ジュリも李仁もタトゥー入ってるから一緒に行けないし」

「うん、隠せる範囲じゃないし……しかもがっつりやばいやつ」

「同意」

 二人で合わせて笑った。


 玄関を開けるといっぺんに雰囲気は変わった。ただのスーパー銭湯ではない、旅館のような薄暗さ。昔ながらの玄関を上がって靴箱に靴を入れて財布にいれる。

「俺払う」

 とシバが現金を出す。

「いいよ、僕が出すよ」

「出させてよ」

「……じゃあ」

 と湊音はシバの後ろに下がる。

「シバ、相変わらず現金派だね」

「おう、なんだかんだでやっぱり現金は神」

「はいはい」

 湊音は二人の環境が変われど昔と変わらないシバを感じ少し懐かしい気持ちになる。

 受付を終えて途中食堂があるがやはり人は多い、昼時もあって賑やかで一部では昼から飲み会をする老人たちの声で盛り上がる。

「俺等もおっさんになったら昼間っから酒のんで、あんなかんじなるんやろうか」

「もう僕らだっておっさんだよ」

「45超えたらアラフィフ、50代に足突っ込んでらぁ、ってさあの二人が風呂はいらなかったらここの食堂いけるんじゃね?」

「あぁ、そうか……。美味しいらしいからねここのご飯」

「そうそう、まずひとっ風呂浴びてから飯食うのたのしみしてんの」

「同じく」

 二人は足取りが早くなる。食堂を抜けて休憩室、マッサージ処を通る。マッサージを受けていいる人たちが簾越しに見える。


「もうジュリのマッサージ受けてからは他のマッサージ屋には浮気できないね」

「わかるわかる、他のやつは生ぬるい。女性的なエロティックさを表に出して力はめっちゃ男だからやべぇの」

「こないだもしてもらったけど軽くなる」

「してもらってるのかぁ。俺も夜やってもらうつもり。飯もここの飯最高とか言いながらもジュリの飯が最高」

「僕も、李仁の料理が一番」


 するとシバが足を止めた。

「ふたりきりなのに互いのパートナーの話ししちまうのってなんなんだろうな」

「……あ」

 そうだよなぁって言いながら男湯の暖簾をくぐった。



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