第20話 清水と李仁
ホテルに無事についた。
部屋は昨日の宿よりも広く吹き抜けがある。個室の温泉もあるためゆっくり休めそうだと思った矢先に李仁はベッドにすぐ沈んだ。相当疲れていたようだ。
「僕も運転できたら良かったけど」
湊音は精神的な問題で運転することは推奨しないと言われている。
「大丈夫、私が運転するから」
と、言って李仁は寝てしまった。
湊音はその彼に寄り添って一緒に寝てしまった。
そして2人は目を覚ましたら十八時過ぎになっていた。まだ2人はこのままでいたいと思っていたが互いのお腹が鳴ってご飯を食べることにした。
昨日はバーであれこれ食べていたが今日の旅館は近江牛のすき焼き御前付きであった。
「そいやさ、ミナくんに話しておきたいことがあるの」
「なあに?」
少し不安になりつつも湊音は箸を止めた。すると李仁はそのまま食べて、と。
「昨日のバーにいた清水くんのこと、今話していい?」
「……今?」
「ええ。気にはしてない?」
湊音は味噌汁を啜って少し考えた。
「いいよ、話して」
李仁はそれを聞いて話を始める。
「清水くんは私が20代の頃に会ったゲイ仲間の1人なの。彼の方が年上だけど気さくで面倒見のいい人でね」
「李仁がホストとかダンサーやってた頃の?」
「そうそう、親から勘当されて生きるために必死で自暴自棄だったからかなり荒れてて。そんな時に会った人……。彼に会わなかったら今の私はいなかったかも」
「……」
「憧れの人でもあったけど彼は距離を置いてくれた。だから関係はなかったわ。それだけは誓う」
李仁と関わる男性=体の関係がある、そうとは知っていた湊音。
李仁の両耳にある無数のピアスの跡は抱かれた男の数、と言っていたからだ。今は湊音からもらったピアスが刺さってる二箇所のみ。
「……お前は食と酒のセンスがあるからホストとダンサー辞めてバーテンダーの仕事しろって言われた」
「へぇー」
「他の人からも言われてたけど清水くんが言うんだったら……って少しずつ夜の仕事減らしてバーテンの仕事もやってさ。そこに何度も清水くん通ってくれて数年後には店をやったらどうだって背中押してくれたの」
「確かに彼がいなかったら……」
李仁は頷いた。
「滋賀出身だった彼は店の開店前に私のためにあのときしめす守を買ってきてくれて……ちょっと今日お守り見たら思い出したの」
李仁はビールを最後まで飲み干した。
そのあと2人は個室の温泉に入り、体を寄り添い湯の中で愉しむ。
そしてその熱った身体をベッドの上で何度も交じらせる。今日は李仁の方が優位的だ。2日連続ビールを飲むことはない李仁は旅行ともあってかなり開放的になっているのだろうか。
それとも過去の話を湊音にしたからなのか……。
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