第14話 異変の正体

「こんな廃れた神社、どう見たって神なんていねえだろ。それに、面白半分で肝試ししている奴らを神が守ると思うか?」


 きっぱりと言い放つシイバに朔弥君はぐうの音も出ないようだ。


 だが、蛇神様もこの町の神社は神様がいないところがほとんどだと言っていた。想像はできていたが、おそらくここの神社には神様はいない。


「神頼みは無駄ってことだ。期待するな」


「どっちにしろ、早く先輩たちを助けないとな」


 シイバの言葉に朔弥君は真顔で頷く。


 覚悟を新たに参道を突き進む。


 ただ、進む中でも嫌な予感がまとわりついていた。十分くらいの道のりの割には、一向に抜けられる気配がないのだ。それに、林にも満たない辺りの木々がさらに生い茂って見える。これは、暗さによる錯覚と思っていいのだろうか。


 不安を感じる中、黙々と進む。朔弥君もシイバも先ほどからずっと黙りっぱなしだ。警戒しているのか、それとも二人とも私が抱いている違和感と同じものを察しているのか。緊迫した空気が漂っている。


 そんな中、私は思わず足を止めた。


 いきなり立ち止まる私に朔弥君とシイバも「うわ」と驚きの声を漏らす。


「どうした」


「なんかあった?」


 心配してくれる二人だが、この様子だと彼らは気づいていないようだ。


「もしかして……聞こえないの?」


「聞こえるって、何が」


「……子供の、笑い声」


 私の発言に朔弥君の顔が一気に青ざめた。けれども、冗談ではない。今だって幼い子供の楽しげな笑い声がずっと聞こえているのだ。ただ、森の奥から聞こえているだけで、声の正体はまだ掴めないでいた。


 うろたえる私たちだったが、シイバだけが冷静だった。


「ニノ、どっちから聞こえる?」


「た、多分、こっち……」


 恐る恐る木々の奥を指差す。すると、シイバは笑い声が聞こえたほうへと歩き始めた。


「おい、シイバ!」


「待ってよ!」


 参道から外れるシイバの歩みに私も朔弥君も戸惑いながらも後に続く。


 先頭を行くシイバの服の裾を掴みながら、私はずっと子供の笑い声を聞いていた。方向はこちらで合っているのだが、この声に導かれているように突き進んでいることにも恐怖を感じる。


 怖さを誤魔化すようにシイバの服の裾をさらにギュッと握る。すると、今度はシイバがいきなり足を止めた。


 突然のことで上手く止まることができず、シイバの背中にドンッとぶつかる。しかし、謝ってもシイバは無言だった。


「……どうしたの?」


 ドキドキしながら前にまわって彼の顔を覗き込もうとする。


 だが、その前に飛び込んできた光景に私は息を呑んだ。

 あれだけ木が多かったのに、シイバが立ち止まった先から草原が広がるほど開けた場所に出た。


 声の主らしい子供はそこにいた。


 着物を着た男の子だ。背丈から見ると小学校低学年くらいだろうか。開けた広間の中央には切り株があり、そこに座ってクスクスと笑っている。だが、私が驚いたのはそれだけではない。同じ場所に朔弥君の先輩もいるのだ。


 しかし、全員男の子の足元で横たわっており、気絶したようにピクリとも動かない。


「先輩!」


 声を荒げて駆け寄ろうとした朔弥君だったが、咄嗟にシイバが止めた。座っていた男の子が切り株から立ち上がり、私たちに声をかけてきたからだ。


「お姉ちゃんたちも、遊んでくれるの?」


 可愛い声に反して体が凍りついたように寒気がした。この子は危険だ。私の第六感がそう言っているような気がしたのだ。


「こいつ、『あやかし』じゃねえ……立派な悪霊だ」


 シイバが告げた男の子の正体に私も朔弥君も目を見開いた。生きている者ではないのは想像できたが、シイバの頬を引きつらせる感じを見ていると、只者ではなさそうだ。


「お前ら、逃げるぞ!」


 シイバの鶴の一声で私と朔弥君も一気に駆け出す。


 けれども男の子はケタケタと笑いながら私たちの後を追う。


 中学生の私たちに小学校低学年の子が追いつくなんて到底無理な話だ。なおかつ、相手は着物と下駄。走りにくい格好であるのに、男の子はまるで飛んでいるかのように私たちを追う。このままでは、追いつかれるのも時間の問題だ。


 まだ追いついていない。そのはずなのに、耳元ではずっと彼の笑い声が聞こえていた。まるで後ろにまとわりつくかのようにケタケタ、ケタケタと……。


 それがたまらなく怖くて、私は走りながら両耳をふさいだ。だが、それがいけなかった。


「……お姉ちゃん、僕の声が聞こえてるの?」


 耳をふさいでいるはずなのに、耳元ではっきりと男の子の声が聞こえたのだ。あざ笑うかのようなあの冷たい声が。


 ハッと反射的に振り向くと、男の子がカッと目を見開いてニタついていた。

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