第12話 レクリエーションは肝試し

 蛇神様が残した言葉の意味は結局わからないまま、土曜の夜――レクリエーション当日を迎えた。


 レクリエーションの参加は伯父さんも伯母さんも快く「行っておいで」と言ってくれた。


 朔弥君はというと、きっちり時間通りに迎えに来てくれた。相変わらずニコニコと笑っており、彼もこの日を楽しみにしているのが見てとれた。


「んじゃ、行こうぜー」


「そういえば、どこに行くの?」


「あれ? 言ってなかったっけ? 昔の野井津神社。そこで肝試しするんだよ」


「き、肝試し⁉︎」


 肝試しだなんて一言も聞いていない。いや、聞かなかった私も悪いんだけど……けれども肝試しだなんてそんな怖いことやりたくない。やりたくないが、今更断るのは申し訳ない。


「シ、シイバ〜」


 涙声で彼に訴えるが、彼はやる気なさそうにあくびをしている。これでは彼の助けは期待できなさそうだ。


「大丈夫だよニノ。ニノ以外にもマネージャーの女の子も来るし、いざとなったらシイバと組ませてあげるから」


 怯える私を元気つけるように朔弥君が肩を叩く。


「それに、コースなんて十分もかからないくらい短い参道だ。神社なんだから幽霊もいないよ」


「う、うん……」


 朔弥君の励ましに小さく頷く。朔弥君の言う通りだ。神社は神様がいるところ。きっと幽霊なんていない……そう思っていたのに、神社に着いたらその願いも見事に打ち砕かれた。


 いる。この神社には絶対いる。


 神社自体も古くてぼろぼろだし、木々が生い茂って辺りに明かりはないし、空気はどんよりとしているし、何より雰囲気が怖い。こんなところで肝試しなんて絶対無理だ。


 不運はまだ続く。なんと来ると言っていたマネージャーの女の子が急に来られなくなった。つまり、参加する女子は私だけ。


 それでも朔弥君は私が怖くないように色々取り繕ってくれた。


「マネージャーが来れなくて一人あまっちゃったから、ニノは俺とシイバと三人で行くことになったよ。順番も最後にしてもらったし、戻ったらみんないるから安心だろ?」


 懐中電灯片手に朔弥君はブイサインして笑う。シイバもいて、朔弥君がいて、とても心強い。だが、怖いものは怖いのも確かだ。今だって私は半泣きでシイバの腕にしがみついている。


 一方、シイバはかったるそうにぼりぼりと頭を掻いていた。こちらもこちらで乗る気はなさそうだ。


「こんなくだらねえこと、とっとと終わらせて帰るぞ」


「まー、まー、そんなこと言わずにのんびり行こうよ」


 朔弥君がそう言って神社の鳥居に顔を向けると、すでに肝試しは始まっていた。


 ルールは簡単。参道を歩いて神社の境内をぐるっと一周するだけだ。五分置きにスタートするから、かなりの流れ作業になりそうだ。私たち含めても五組しかいないし、彼の言う通り早く終わりそうである。


 私たちは最後の番なので、順番が来るまで鳥居の前で待機することになった。


「その間におしゃべりでもして仲良くやろうよ。なあ、シイバ」


「お喋りって……別にお前と話すことなんてねえよ」


「でも、俺はずっとシイバに聞きたいことがあったんだよね」


 あれだけニコニコ笑っていたのに朔弥君はいきなり真顔になる。いつも笑っている彼のこんな顔なんて初めて見るものだから、私もドキッとした。


「なんだよ、聞きたいことって」


 渋い顔をしていたシイバが構えたように朔弥君に聞き返す。すると、朔弥君も真面目な顔のまま、静かなトーンで話を切り出した。


「シイバ……お前……死んじゃうの?」


「は?」


「いや、シイバの髪って白いから、なんかの病気かと……」


「病気じゃねえし、地毛だし、死なねえよ」


 呆れながらシイバは白髪の混ざった頭を掻く。すると朔弥君は「そうなの?」と持ち前の大きな目をさらに見開いた。だが、その驚きの表情もすぐに屈託のない笑顔になる。


「よかったー。俺、シイバが死んじゃったらどうしようかと思った」


「別に……俺が死んでも死ななくても関係ないだろ」


「そんなこと言うなよー! せっかく友達になったのにー!」


 素っ気ないシイバに朔弥君が泣きつく。今の笑顔といい、この言い草といい、本気でシイバのことを心配していたらしい。ちょっと天然ボケなところもあるみたいだけれど、優しい人のようだ。ただ、シイバのほうがまだ彼に心を開いていなくてうざったそうにしている。


 じゃれ合う二人を微笑ましくしばらく眺めていると、突然朔弥君のスマホが鳴った。


「わ! びっくりした!」


 いきなり鳴ったスマホに私の肩もビクッとすくみ上がる。


 慌てて朔弥君がスマホを確認すると、鳴ったのはアラーム機能だった。


「あ、俺らが出発する時間だ」


 どうやらそれぞれ出発する時間帯にアラームを設定していたらしい。


 だが、私もシイバも、そして朔弥君も不穏な空気を感じていた。周りを見回しても私たち以外誰もいないのだ。

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