第11話 はんぶんこ
「なんだシイバ。ニノに自分のことを話してないのかい」
「別に。言わなくていいだろそんなこと」
「それはいけない。今後のために話しておかないと、いざと言う時にこの子を守れないよ?」
諭されるように蛇神様に言われたシイバは「うっ……」と言葉を詰まらせた。だが、いったいなんの話だろうか。二人の会話についていけず、ついぽかんとする。
そんな私のリアクションを察した蛇神様が穏やかな口調で私に教えてくれた。
「シイバはね、半妖なんだ」
「半妖っていうことは……ハーフってことですか?」
「そう。『
聞けばこの神社はシイバの妖力の源である妖気と相性が良いようで、ずっと昔からここに住み着いていたらしい。そこでまだ子供だったお母さんと出会い、上園家とも親しい仲になったようだ。
「あの時はびっくりしたねー。シイバだって人間に見つからないように『あやかし』の姿をしていたのに、まさかあんな幼い子が我々の姿を視れたなんて」
「そうだな……俺もあの日のことは忘れねえよ。すぐに蛇の姿になって逃げたお前のことをな」
「まあまあ、悪かったって。でも、よかったじゃないか。その日からこうして堂々と力を補充できるようになったんだし。こういうの、『結果オーライ』と言うのだろう?」
クスクスと笑う蛇神様にシイバは「ケッ」と苛立つように吐いた。
「なら、シイバと会ったのがきっかけでお母さんは『あやかし』と知り合うようになったんだね」
「そういうことだ。琴子が亡くなったことを聞いた時は本当に驚いたよ。でも、私も『往昔写し』もこうして君に会えることを楽しみにしていたんだ。会えて嬉しいよ、ニノ」
にっこりと表情を緩める蛇神様を見ていると、私も思わず頬が綻んだ。
そんなやり取りの横で、シイバは太ももに肘を突いてムスッとしていた。
「どうしたの? 顔が怖いよ」
「うるせえなあ……放っておけよ」
すっかりへそを曲げるシイバに小首を傾げる。
「もしかして、ニノに半妖であることを知られたくなかったのかい?」
「だから、うるせえって!」
蛇神様に怒るシイバだが、この感じだとどうやら図星のようだ。
自分のコンプレックスがバレてすっかり不貞腐れるシイバだったが、そんな彼をなだめるように蛇神様が話しかけた。
「まあ、半妖でもいいことはある。我々が人間が可視できるくらいの姿を保つには相当な妖力が必要だけれど、元々人間の血が混ざっているこの子はこうして『おうまがどき』関係なく人の姿になれる。本人はどう思っているかはわからないけどね」
「『おうまがどき』……?」
また出てきた言葉だ。昨日からシイバも何回も言っていたが、結局この言葉の意味は教わっていない。
「あの、『おうまがどき』ってなんですか?」
どぎまぎしながら蛇神様に尋ねると、一瞬意外そうな顔をされたものの、すぐに微笑んで教えてくれた。
「漢字で書くと『逢魔時』……つまり、この世のモノではない『あやかし』や幽霊が活発になる 時間帯のことを言うんだ。ちょうど夕方くらいがその時間でね、『あやかし』の妖力も上がって出没しやすいんだよ」
なるほど、今思えば昨日私が『影呑み』と会ったのも夕方だった。それでシイバも「気をつけろ」と言ったのだろう。
ただ、昨日のことを話すと蛇神様は「それなら最初からついてくればいいのにね」と苦笑いをした。
「この町は『あやかしの通り道』と言われるほど『あやかし』が多い。その昔は『あやかし』から守るための神社が多かったんだけど、今はもう神も愛想をつかすほど無人で
念を押す蛇神様のお言葉に深く頷く。私ももう怖い『あやかし』には会いたくない。このことは肝に銘じなければ。
そんな話をしているうちに、シイバがすっくと立ち上がった。
「終わった。帰るぞ」
ぐしゃぐしゃと頭を掻きながらシイバはひと息つく。しかし、シイバは蛇神様やコトコトに挨拶もせず、階段を上ろうとしていた。
「シイバ」
立ち去る直前に蛇神様に呼び止められ、シイバは無言で振り向く。そんな無表情な彼とは対照的に蛇神様は笑みを浮かべた。
「……黒い影が視えてるから、くれぐれも怪我には気をつけて」
その意味深な言葉はシイバも理解できないようで、彼は眉をひそめたまま小首を傾げた。
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