第10話 神様、登場
「きゃぁぁ! へびー‼」
シイバの隣に真っ白で赤い目をした蛇がいる。しかもちょろっと長い舌を出して私のことを見上げているではないか。シイバもどうしてこんな足元に蛇がいるのに落ち着いていられるのだ。
そんな私を見て蛇は「おやおや」と苦笑いをしている。
「悪かったよ。蛇が苦手なんだね。ちょっと待っておくれ」
そう言うと、蛇の体がいきなり光に包まれた。驚くのも束の間。光が強くなったと思えば次に現れたのは腰まで伸びた癖の強い白髪と釣り目で赤い瞳をした男の子だった。この容姿は先ほど出会った蛇とよく似ている。
「え? え⁇」
突然の出来事に混乱していると一連の流れを見ていたシイバが呆れたように息をついた。
「なんの用だよ。
「え、へびがみ?」
シイバが呼んだ彼の名前にぽかんとしていると、蛇神と呼ばれた男の子はクスッと笑った。
「初めまして。私はこの祠に
言われてみれば祠の横に蛇の模様が刻まれた石があった。それにこの落ち着いた風格はシイバと全然違う。なんというか、妖気より神々しさを感じる。
「ご、ごめんなさい! 私、神様に失礼なことを……」
「いいんだよ。最初からこの姿になればよかったんだ」
頭を下げる私にも蛇神様はにこやかに笑う。凄い罰当たりなことをしてしまったのに、なんて懐の深い神様なのだろう。
そんな彼に向かってシイバは無礼なくらい口悪く彼に話かける。
「んで、いい加減俺の質問に答えろよ」
「ああ、そうだったね。まあ、なんてことない。琴子の娘を見に来ただけさ――おや?」
首を傾げた蛇神様がふと振り返る。だが、そこにあるのは木々だけだ。
それでも蛇神様は「フフッ」とおかしそうに笑う。
「どうやら野次馬は私だけではなかったらしいよ」
と、蛇神様は「おいでおいで」と木々に向かって手招きした。
すると、足元の草がガサゴソと揺れた。いきなり現れた何者かの気配にごくりと唾を呑む。だが、現れたのは手のひらサイズの謎の生き物だった。
その生き物はもこもことした白い体毛に覆われ、頭に二本に触覚がついていた。つぶらな瞳に尖ったような鼻も特徴的だ。勿論、こんな生き物は見たことがない。これはもしかして『あやかし』だろうか。
小さな『あやかし』をまじまじと見ていると、この子もびくびくしながら私のことを見つめていた。
「コトコ……?」
「え?」
小さく呟いたお母さんの名前に思わず目を丸くする。すると今まで怯えていたこの子も草原から出てきた。
「コトコー!」
「わわっ!」
さっきの怯え具合はどこへ行ったのやら、『あやかし』は声をあげて私のほうで飛んでくる。思わず手でキャッチするが、『あやかし』は着地できたことが嬉しいのか「コトコー!」と両腕を挙げた。
そのやり取りを見て蛇神様は微笑ましそうにしている。
「すっかり『
「『往昔写し』って……やっぱりこの子も『あやかし』なんですか?」
「そうだよ。琴子のことが好きでね。きっとこの子も君に会いに来たのだろう」
蛇神様の言葉に返事をするように『往昔写し』は「コトコー!」と手を挙げる。けれどもせっかくお母さんに会いに来てくれたのに肝心のお母さんがこの世にいないのは心苦しい。
「ごめんね。私、琴子じゃないんだ」
「コトコ?」
「あ……だから、私は琴子じゃなくて……」
不思議そうにお母さんの名前を言う『往昔写し』に戸惑いながらも説明を重ねる。しかし『往昔写し』は相変わらず「コトコ」とお母さんの名前を呼んでいる。
これに見兼ねたシイバが「やれやれ」と私に教えてくれた。
「そいつ……琴子の名前しか言えないぞ」
「それってつまり……『コ』と『ト』しか話せないってことね」
確かめるように言うと、「コトコト!」と『往昔写し』はピシッと胸を張った。可愛いけれど、威張るところでもないような……。
「じゃ、君のこと『コトコト』って呼ぶね。私、篠崎仁乃。よろしく」
自己紹介をするとコトコトは私の手のひらでピョンピョンと飛んでいる。これは喜んでいるということでいいのだろうか。でも、この小さな体といい、動作といい、ひとつひとつが可愛くて思わず
コトコトの愛くるしさにほんわかとしていると、蛇神様も楽しそうに破顔する。
「君はニノって言うんだね。素敵な名前だ」
「おい、ジジイが
「おやおや、手厳しい。せっかくシイバの妖力の補充が終わるまで話し相手になろうと思っているのに」
「妖力の補充?」
聞き慣れない単語につい尋ねてみると、蛇神様は「おや?」と意外そうな声をあげる。
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