第44話 眠るなんちゃんの傍らで。
――パン!
私は両頬を叩いて気合いを入れた。
過去の事なんて引きずってても仕方ないよね。
せっかく今日はなんちゃんが来てくれて、久しぶりに会えたのだし。
私は普段着に着かえると、そーっと扉を開けた。
「なーんちゃん、お待た……せ……」
そして扉からなんちゃんがいるソファーに向かって顔を覗かせたのだけど。
「……あれ? なんちゃん、寝ちゃった??」
ソファーに座っているなんちゃんは俯いていて、眠っているように見える。
「…………」
起こさないようにそーっと近づいてみれば、やっぱりなんちゃんは眠ってしまっていて、スース―と穏やかな寝息が聞こえた。
……連日イベント会場の設営に行ってたみたいだし、今日もうちに来てくれる前まで汗かくほどの仕事してたみたいだし、疲れてるんだろうな。
だったら、残りの時間は寝かせておいてあげようかなと思った。
私は、なんちゃんがいてくれたらそれで嬉しいし。寝顔見れるとか、控えめに言ってサイコー……。
そう思って、寝ているなんちゃんにタオルケットを掛けると、私も隣に座った。
(寝てるなんちゃん……可愛すぎるんだけど)
別になんちゃんがベビーフェイスとか背が低いということもないのだけど、たまらなく可愛いと感じてしまうのは、なんちゃんが年下だからなのか、それともなんちゃんの雰囲気のせいなのか。
しばらく隣に座って大人しくしていたのだけど、時計の針が進むにつれてなんちゃんが帰る時間が近づいてきてると思うと寂しくなってきて。
私はつい、なんちゃんの肩にもたれかかった。
それでもなんちゃんは起きなくて。スース―と寝息を立てたまま無防備に眠っているなんちゃんが愛おしくてたまらない。
「ねぇ、なんちゃん。ほんとに寝てるの?」
小さな声で聞いてみたけど返事はなくて。
(ほんとになんちゃんの唇、可愛いなぁ……)
少しそんな邪念が沸いてきてしまって。
「なーんちゃーん。そろそろ起きないと、ちゅーしちゃうぞー?」
小さな声でそんな冗談を言ってみた。
(なーんて。さすがに寝てる人にそんなことしちゃいけないのは分かってますよー)
心の中でそんな不貞腐れたことを思っていると……
「…………ですよ」
なんちゃんが、寝言のような声で何かを言った。
「え?」
反射的に聞き返してみたら……
「……いいですよ」
今度ははっきりと、そう聞えた。
「え? 今、いいって言った? ねぇ、なんちゃん」
そう言って抱きついてみたのだけど、なんちゃんはやっぱり眠ったままで。
けれどむしろこんなに抱きついてるのに起きないなんて、わざと眠ったフリをしてるのかなと思えてしまって。
そう言えば、前回私がなんちゃんにキスしようとした時、なんちゃんは目を瞑ったなと思い出した。あれって、キスしてもよかったってことだよね??
「……なんちゃん、起きてるんでしょ? 早く起きないと、ほんとにちゅーしちゃうよ?」
なんちゃんのほっぺをツンツンとしながら話し掛けた。すると――
「…………意気地なし」
「!!」
そんな事を言われたら、キスしない方が意気地なしだって言われてるように思えてしまって。それがなんちゃんが見てる夢のせいだなんて思えなくなっていて。
「意気地なしなんかじゃ、ないもん……」
悔しくなった私は……眠るなんちゃんの唇の端っこに、軽く、キスをした。
「……すーすー」
けれどなんちゃんは何の反応もないまま、ただ寝息を立てたままで。さっきの言葉は本当の寝言だったのだと気付いた。
「……なんちゃんの、ばか。……私ばっかり、どきどき、しちゃったじゃん」
恥ずかしくなってきて。でも少し悔しくて。
私はポテッと軽くなんちゃんの肩に頭突きすると、なんちゃんの身体に抱きついた。
そしたらなんちゃんは寝ぼけたまま、ぎゅっと私の身体を抱き寄せたから、なおのことドキドキしてしまう。
「……もう、ほんと、ばか。……他の子にもこんなことしてたら……泣いちゃうんだからね」
さっきよりも苦しくなった胸の痛みを感じながら、私はなんちゃんに抱きついた。いつもより温かいなんちゃんの体温と寝息に、なんとなく気が抜ける。
この時間が永遠に続いたらいいのになぁ……そんな事を思いながら、私もそのまま目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます