第41話 お姉さんはうっかりが過ぎる。

「うわーめっちゃうまそうな匂い!! 今日はウーパー頼んでくれてたんですね」


 パックを外して、届いた料理をテーブルに並べながら話し掛けた。お姉さんが注文してくれていたのは、ピザとポテト、チキン、サラダ、それにドリンク。かなり豪華だ。


「うん! なんちゃんいつも洗い物してくれるけど、今日は疲れてるかなーって思ったから。今日はゆっくり食べてお疲れパーティーしよ♡」


 てっきりジムに行っていたから作る時間がなかったのかなと思ったら。まさか俺を気遣ってくれていたなんてと嬉しくなる。


「え、マジですか。優し過ぎません? あ、会計いくらですか!!」


 けれどさすがに今回は食事代を払おうと思ったのだけど。


「えー? なに言ってるの。私が食べたいもの勝手に注文しただけだから、一緒に食べてくれたらそれだけでいいよ?」


 お姉さんは相変わらずそんな事を言うから。


「それじゃ俺の気が済まないから……何か、しますよ? さすがに」


 そう言うと。


「じゃあ……後で私がなんちゃんに見せたい服、見てくれる!? それで褒めてくれたらなお嬉しい!!」


 お姉さんは子供みたいにそう言った。


 その言葉を聞いて、“ああ、そうだった”と思う。前回俺は、『今日はもう、このままファッションショーでもしましょうか』と言ったのに、結局出来ないまま次の現場に行ってしまって、しばらくぶりに会えたのが今日なのだ。


 これは叶えないわけにはいかない。


「もちろんです。そのために、段ボールにまとめてるんですもんね。今日こそ盛大にファッションショーしましょう!!」


 そう言うと、お姉さんは何とも嬉しそうに微笑んだ。




「あーうまかった!! ごちそうさまでした!!」


 二人で食事を終えて、手を合わせた。


「おいしかったね!! ちょっと張り切って注文し過ぎちゃった」


「ですね、お腹パンッパンです!!」


 食べ過ぎて、ベルトがキツイ。


「ねぇ? これから着替えてなんちゃんに見てもらうのに、食べ過ぎてお腹ぽっこりになっちゃったの不覚過ぎる。せっかくジム行って絞ってきたのに……」


 お姉さんは眉尻を下げながらそんな事を言う。もうその顔すら可愛いのに、もしかして俺に会うから絞って来たのかと思うとたまらない。


「え、そんなの気にしませんって。お姉さんがスタイルいいのはすでに知っていますし!! 全然問題なしです!!」


「もー。本当になんちゃんは持ち上げるのがうまいんだから。……じゃあ、着替えて来るから、なんちゃんはソファーでゆっくり座って待ってて?」


「はい!」


 そしてお姉さんは段ボールの中から服を選び始めた。


「どれにしようかなー。お腹隠れるのがいいなー。でもせっかくだから可愛いのがいいなー。なんちゃん、どんなのが好きだろう」


 ……独り言、全部丸聞えなんだけど。と思いつつ聞こえないふりをしていると、選んだ服を持ってお姉さんは隣の部屋へと消えて行った。




「なんちゃーん、お待たせ!! どうかな」


 しばらくして着替えたお姉さんが両手を広げて見せてくれたのは、白のレースのトップスに、デニムのタイトなスカート。はっきり言って、スタイルの良さが際立って、可愛いのにエロいと思う。お腹ポッコリとか言ってたの、どこの誰だよ。スタイル抜群過ぎるだろ!!


 けど、そんなこと言えなくて。


「おお、可愛いです!」


 それしか言えないのだけど、それでもお姉さんは嬉しそうな顔をする。


「へへっ。このトップスはお気に入りなんだー。こっちのスカートと合わせても可愛いんだよ」


 そう言って、お姉さんはスカートのファスナーに手を掛けた。


「ちょ――っと待ったあ!!!!」


「え?」


 慌てて止めに入った俺に、お姉さんはきょとんとした顔をする。


「……ここで着替えないでください!!」


「え!? あ、ごめーん、つい」


 止めに入った俺に、お姉さんは舌をペロッと出しておどけて見せた。


 ――まったく。相変わらず、お姉さんはうっかりが過ぎる。


 もしも俺が止めなかったら、あのまま……着替えてた、よな。

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