第40話 夢見心地と、思わぬ悲鳴

 今。俺はお姉さんの部屋の中で、お姉さんに膝枕をされていて。顔にパックされたまま目を閉じていて、お姉さんに手をマッサージされている。


 俺の片手に対してお姉さんは、クリームをなじませた滑りのいい両手で包み込んでいて、滑らかにリズムよく心地いい刺激を施していく。


 お姉さんの指先が柔らかく圧をかけるたび、俺の全身の力が抜けて、疲れがほぐれていくような、心地いい感覚。そしてふわりと漂うクリームのいい香りが、より気持ちをリラックスさせ、『夢見心地』とはまさにこのことだと体感するように、だんだんと微睡まどろみなかへといざなわれていく。


「ふふ。気持ちいい? このまま少し寝ちゃってもいいからね」


 お姉さんの心地いい声がそれをより後押しして、もう意識を手放そうとした。その時。


 ――ピーンポーン


 俺の意識を引き戻すように、インターホンが鳴った。


「あ、ウーパーイーツかな。ごめん、なんちゃん、受け取って来るね」


 まだ半分微睡の中にいる俺を気遣うように、お姉さんは優しく俺に声を掛け、インターホンの方へと向かおうとした。


 けど。


「だめ」


 無意識に俺はお姉さんの腕を捕まえていて。


「え? ……でも……」


 困惑するお姉さんをソファーに座らせると、『俺が出るから』と伝えて俺がインターホンへと向かった。


 丁度飯時めしどきで同じマンション内に配達を終えた後なのか、配達員はエントランスではなく玄関先にいるようで、俺はインターホンで応対をすると、そのまま玄関へと向かった。


 その途中、後ろからお姉さんが、『なんちゃん、顔!!』と言ったけど、もう時すでに遅し。


 俺はパックで顔面真っ白のまま、玄関の扉を開けた。その瞬間、配達員が目を見開いて驚いた。


「ぎやぁあああああああああああああああああ!!!!!!」


 その声に驚いて、思わず叫んでしまった俺。


「うわああああああああああああああああああ!!!!!!」


 そんな悲鳴と叫び声との共演に。


「だ、大丈夫!?」


 部屋の奥からお姉さんが駆け寄って来る気配がして。


「配達ご苦労様です!! すみませんっした!!!!」


 俺は慌てて配達員から商品を受け取ると、会釈しながら急いで玄関の扉を閉めた。


「なんちゃん!? どしたの!?」


 そこへ心配したお姉さんが駆け付けてくれたのだけど……。


「いや、大丈夫です。俺の顔に配達員さんびっくりしちゃったみたいで。俺もその声にびっくりしちゃっただけなので……」


 頭を掻きながらそう答えると。


「ぷぷっ。もー、そんな顔で出なくても私が出たのにー」


 お姉さんが笑いながらそう言ったから。


「はは、それもそうっすね!! 俺、寝ぼけて自分の家だと勘違いしたのかもー」


 俺もそう答えて笑った。


 ――けど、これは大嘘。


 本当は……『なんちゃん専用』だと言われたお姉さんの肩出しミニスカート姿を、他の男に見せたくなかっただけ。


 そんなこと、お姉さんには恥ずかしくて言えないけれど。

 無事に他の男に見せずに済んだことを、俺は心の中で安堵した。

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