第39話 お姉さんの膝枕とイタズラ心
「パック……ですか? 俺、したことないんですけど……」
俺の顔に美容パックをしたいと言い出したお姉さんに、全然違う事を想像していた事を悟られないよう、やっぱり俺は平静を装ってお姉さんに聞いた。
「大丈夫! 私が全部してあげるから。なんちゃんはこのまま寝てて?」
「あ……分かりました」
俺の返事にお姉さんはふふっと柔らかく笑うと、コットンに化粧ボトルに入った何かの液体を含ませ始めた。
「じゃあ……まずはお肌の汚れをふき取っていくね。ちょっと冷たいよー」
「はい……」
なんとなく目を瞑ると、お姉さんは慣れた手つきで俺の顔を優しくふき取りはじめた。
「あれ? お仕事の後なのにそんなに汚れてないね」
「ああ、あまりに汗かいたから家帰った時にシャワーも浴びて来たんで……」
「そうなんだ。私もなんちゃん来る前にシャワー浴びたんだよねー。ジム行って汗かいたから」
お姉さんの膝枕状態のまま、なんとなく話ながらお姉さんは作業を進めていく。その優しい手付きと冷たいコットンは、なんとなく心地いい。
「え、お姉さんジムとか行くんですね」
「うん、体形維持のために軽くね。あ、そうだ! 今日お腹にいい感じの縦線が入ったの!! 見る!?」
そう言ってお姉さんは自分の腹のあたりの服をまくり上げようとした。
「え!! いや!! いい!! いいです!! 見せなくて!!」
俺はそれを必死に引き留める。
「えー? 見て欲しかったのに。でもこの体勢じゃ、ちょっと分かりづらいか……」
お姉さんはボソッとぼやきながら今俺の顔をふき取っていたコットンを捨てて、新しいコットンにまた別の化粧水を含ませ始めた。
「じゃあ、次は化粧水塗っていくねー」
「はい……」
俺は再び目を閉じて、肌に何かを染み込まされていく。ひんやりとしたコットンが優しくゆっくりと押し当てられて、気持ちがいい。
と、思っていると。
「えいっ」
唐突にお姉さんに唇の両端を挟まれた。
「な!?」
「へへー。タコの口ー♡ こないだ、あと一歩のところで見損ねたからー♡」
無邪気なお姉さんの笑顔に気が抜ける。まったく、この人は。そう思いつつ、悪い気はしない。
「まったく。まだ狙ってたんですか。俺のタコの口見るの……」
「へへ♡ 今がチャンスだーと思って♡ じゃあ、後はパックしていくから、目を閉じてて?」
「……なんかまたイタズラされそうで怖いんですけど?」
「えーしないしない。……たぶん」
「それ、するフラグじゃないですかっ!!」
わざとらしくイタズラっ子みたいな顔をするお姉さんが可愛くて。なんかもうイチャついてるだけのような気がしてきたのだけど。
「え? それはしてもいいよっていうフラグ??」
「違う違う違う」
「はーい、じゃあ、パックするから目を閉じてじっとしててくださーい。早くしないとシートが乾いてきちゃう」
「え、あ、はい」
お姉さんはもうすでに開封させたパックを開いていたので、俺も素直に従うしかなくて。
素直にパックされながら目を閉じてじっとしたのだけど。
「ふふ。今ならやりたい放題だ♡」
お姉さんはそんな事を言いながら、俺の鼻頭をつんつんと触った。
「もー!!」
だから俺も何かを言い返そうと思ったのだけど。
「うそうそ。何もしないから。このまま10分じっとしててね。シートがズレちゃうから」
そんな事を言われると、やっぱり従わざるを得なくて。どことなくお姉さんの方が一枚上手だなと思いながら、俺はお姉さんの膝枕の上でじっとおとなしくしていた。
するとそーっと手を握られて、え!? と驚いていると。
「じゃあ、せっかくだからこのままハンドマッサージしてあげるー」
お姉さんはクリームを手に馴染ませながらそう言って、ハンドマッサージがはじまった。
ほんの少し前に“何もしない”って言ったばかりなのに。まぁ、イタズラの類ではないけれど。
仮にもなんちゃん専用と言われた服を着た俺の好きな人が、膝枕してくれながらハンドマッサージって……。
もう、これ完全に、仕事中だという事を忘れてしまいそうだ。
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