第38話 お姉さんが俺にしたいこと。

 そんな会話をしていると、あっという間にリビングに着いていて、リビングへの扉を開けた途端に驚いた。


「――え??」


「へへー♡」


 数日前には散乱していたたくさんの服がなくなっていて、高級感のある大きなソファーの上にはもう何も乗っていないのだ。その代わり、その傍には段ボールが山積みになっている。


 そしてお姉さんは“すごいでしょ? 褒めて?”とでも言うような顔をして俺の顔を覗き込んで来た。


「……こ、これは。……引っ越しでもするんですか!?」


「ち、違う違う!! そうじゃなくてぇ!! 片付けたの!! なんちゃんが季節とか一回着てみたいとかで分けたらいいって教えてくれたから。とりあえず段ボール買って、分けてみたの!!」


 お姉さんの言葉に、引っ越し以外の理由でこんなにたくさんの段ボールをわざわざ買うなんてことがあるんだと少し驚きつつ。


「ああ、なるほど!! おお、すごいじゃないですか」


 そう答えると。


「へへ。だからね……?」


 お姉さんは何か言いたげな様子を見せながら、俺の手を掴んでソファーへと誘導すると、俺をソファーに座らせた。


 そして、その隣にお姉さんも座ると……。


「こーんなことも、出来るようになっちゃった♡」


 俺の肩に両腕を回して、ぎゅうっと俺に抱きついた。


(え、ちょ、また。今日のお姉さん、距離感近すぎないか)


 急に座らされたソファーは高級感あり過ぎて、身体が沈み込んで身動きが取れない。さらに抱きつくお姉さんの柔らかさな重みといい香り。

 さっきまでの仕事の疲れも相まって、……クラっと理性がどこかへいきそうになる。


 そんな時、お姉さんが俺の頬を触りながら耳元で囁いた。


「ねぇ、なんちゃん。あのね、私……なんちゃんに、したいことが……あるんだけど。いいかな」


「えっ!!?? ……なに……?」


 本人に自覚があるかは分からないけど、やたら色っぽく言うから何かと思って声が上擦った。


「あのね……」


 そしてお姉さんはソファーに座り直すと、そのまま俺の身体をゆっくりと横に倒して自分の膝の上に寝かせた。いわゆる……膝枕の状態。


(なになになになになになになになに―――――――――――――――!!!!)


 俺が心の中で冷静さを失っていると、お姉さんは構わずそのままテーブルにある何かを取ろうとした。その瞬間、柔らかな重みによって視界が真っ暗になった。


(ちょ、待って、俺、なんでお姉さんの胸と太ももに顔挟まれてんの!!!! なんのご褒美だよ!!!! ……じゃなくて。いや、ご褒美でしかないけど)


「~~~っ!!」


 急に遮られた視界と呼吸に、思わず動揺すると。

 

「え!? あ、ごめん!! なんちゃん!! 窒息させちゃってた!?」


 そんな俺の様子に、お姉さんは慌てて身体を起き上がらせる。


「……えっと。それで、一体何がしたいんです?」


 今日はやけに距離感が近いお姉さんに、一体何をされるのだろうと恐る恐る聞いてみた。すると返って来た言葉は……まるで俺が想像していない言葉。


「あのね!! なんちゃんが日焼けしちゃったの気になるから……パックしたいの!!」


 テーブルから取った化粧品類を手に持って、お姉さんはそんな事を言い出した。


「……へ!? ぱ……っく??」


 あまりに想像になかった言葉に、間抜けな声が漏れる。


「だって、せっかくなんちゃん肌綺麗なのに。そのまま放置してたらガサガサになっちゃうじゃん。だからちゃんと保湿して、ケアしたいの!! お願い!!」


 お姉さんの必死の言葉に拍子抜けする。


(なんだよ、パックかよ!!!! なんか違うこと想像したわ!!!!!!)

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