第35話 偶然の再会
「お疲れさまでしたー!!」
やっとイベントも終わり、帰る観客たちの群れもまばらになった頃、俺達なんでも屋ナンデーモチームも現場から撤退する事になった。
「あーつっかれたぁー」
「後は明日の撤退作業ですね」
「そんなの今は考えたくない。コンビニ寄って帰ろー」
「あ、いいですね! 俺も行きます!」
この数日ですっかり馴染んできたナンデーモのみんなとそんな会話をしていた時、ふと後ろから綺麗な声で話掛けられた。
「なーんちゃん!」
「え?」
振り返るとそこには、いつもよりしっかりメイクの大人っぽい服装をしたお姉さんがいた。
パッと見だけで、やはり本物のモデルだったのだなと思わせるオーラと存在感。けれどその表情は嬉しそうで、いつものお姉さんらしさが垣間見えて安心する。
「へへ。やっぱりなんちゃんだ。ナンデーモさんのTシャツ着てる人たちがいるーと思って、近づいて来ちゃった」
「え、なんでこんなところにいるんですか?」
「えっとねぇー。今日のファッションショー、私の後輩モデル達もたくさん出てるから特別観覧席のチケットもらってたの。それでイベント見た後楽屋に遊びに行ったりして、そろそろ帰ろうかなーって関係者用出口から出て来たところ」
「ああ、そうなんですね」
「うん。それにしてもなんちゃん、少し会ってない間に日焼けしたねー!!」
お姉さんが俺の頬に手を伸ばそうとした時、コンビニに行こうと少し歩みを進めていた根岸さんに話しかけられた。
「おーい、南谷ー、先にコンビニ行って店戻ってるからなー?」
「あ、はい!! すみません!! 俺も後で戻ります!!」
少し離れた距離のまま、俺もそんな返事をする。
「あ、ごめんね? 引き留めちゃって。大丈夫だった?」
するとお姉さんは少し心配そうな顔を見せた。
「ああ、全然。今日の仕事は終わって、後は店に戻るだけだったので」
「そっか。ならよかった。……またなんちゃんの予約取りたくてお店に電話してみたんだけど、しばらく予約は取れないって言われて、寂しな―って思ってたから。会えて嬉しい」
「……え?」
はにかむお姉さんの言葉に、また予約したいと思ってくれていたことには嬉しく思いつつ、“しばらく予約取れないって言われた”って、どういうことかと不思議に思った。
「……?? しばらくなんちゃん、予約いっぱいで忙しいんでしょ?」
……俺の認識と噛み合わない。
「……そう、言われたんですか?」
「うん。……違うの?」
「おかしいな。俺、そんなに予約埋まってたっけ。……じゃあ、店に戻ったら確認して、また電話させてもらっていいですか?」
「うん!! 待ってる」
今すぐにでもお姉さんの予約を受けたいくらいなのに、身に覚えのない事態に戸惑いつつ。あまりにもお姉さんが期待したような顔をするから、なおさらどうしてもお姉さんの依頼を受けたくて仕方がない。
「じゃあ、どっちにしても後で電話しますね。また後で……」
俺はお姉さんにそう言ってから別れると、コンビニにも寄らずに急いで店へと走って帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます