第32話 『好きすぎる!』(お姉さん視点)

「ああああああああああ、なんちゃん好きいいいいいいいいいいい」


 私はまた今日も、なんちゃんを玄関から送り出してからその場にしゃがみ込んだ。


 いつの間にか時間過ぎちゃってて大失態だったなと思うのだけど、やっぱり私はどうしようもなくなんちゃんの事を好きになってしまっている。

 それも日に日に、会うたびに。


 なんなの? なんちゃんかっこよくない?? クールで落ち着いてて頼りになるのに、時々顔真っ赤になるあのギャップ、何? それでいてやっぱり判断力あって、すごく私の気持ちを分かってくれてる包容力、なんなの?(褒めてる



 なんちゃんといると、今までの恋愛はいかに薄っぺらかったんだろうと思う。


 今までだってそれなりに恋してきたつもりだったけど、たぶんみんな、私の見た目だったり知名度だったり、尽くすところとか、お金持ってるところとか……そーゆーところに惹かれてたんだろうな。


 中には便利だなって思ってた人もたぶんいて、私も私で便利であろうとしてたのかもしれない。


 それでも楽しかったし、その時はそんなものだと思っていた。


 けど――今までも、少し人に愚痴った事はあったけど……。なんちゃんほど私の求めている答えをくれる人はいなかった。私は私でいいんだって思わせてくれるから、すごく安心する。


 


 ――『あはは、お姉さん、変な顔ー。タコみたいになってますよ』


 あんな風に誰かとふざけ合ったの初めてだなぁ。


 敏腕女社長と言われることを誰かにふと愚痴ると、大抵の人は『いやいや実際すごいじゃないですか』と褒め称えてくれた。

 それはもちろんありがたいし、仕事がうまくいっているのも嬉しいけれど、どこか私という人間の表面だけが『すごい人』として光を浴びているような感覚になって、中身は誰も見てくれていないような気がして……寂しかった。


 本当の私は出来ないことばかりなのに。そんな私の素の部分中身はみんな見てくれない、そんな感覚がしていた。


 けど、なんちゃんは……茶化すことで親しみを感じさせてくれて、肩の力を抜いてくれて、対等な目線になってくれて。その上で『俺の前で見せる素のお姉さんも俺は好きですよ』って……私の素を受け入れてくれた。


 そんなの嬉しすぎるよ。そして――


 ――『ほら、他にもまだ着てない着たい服があるんでしょ? 今日はもう、このままファッションショーでもしましょうか』


 あの言葉。最高過ぎるよ。どう考えたって、部屋を片付けるには効率悪いけど。私の本当の根っこの部分では、部屋が片付くことより自分が着たい可愛い服を着て、誰かに可愛いって言って欲しかったんだ。


 ――『俺はこっちの方が好きかも。よく似合ってて可愛いです』


 嬉しすぎるよ。ずっと言われたくて、でも誰にも言われないと思ってた言葉。


 あーあ。もう。なんちゃんほど素を曝け出せる人は初めて。なんちゃんほど私の素を受け入れてくれる人もはじめて。

 こんなの、好きになるに決まってるじゃん!!



 でも。


 ――『……ねぇ、ちゅーしたい』


 あの言葉はダメだったな。もう、なんで私っていつもこう考えなしに言葉や行動が出ちゃうんだろう。


 そして後でハッと冷静になるんだよね。それで今日もまたウソってごまかした。ごめんって謝った。


 けど。


 ――『そーゆーウソを言う口は、どの口ですかああああああああ!!』


 怒るでもなく、拒むわけでもなく、茶化すことで丸く収めてくれるの、やっぱり最高過ぎる。



 ああ、今別れたばかりなのに、もう会いたい。


 明日は何作ろうかなー。何作ったらなんちゃん喜んでくれるだろう。なんちゃんの笑ってる顔、好きだな。真っ赤になってるあの顔も好き。もっといろんななんちゃんを見たいな。 


 そこまで考えて、ふと気付いた。


 え、私――明日の予約、するの忘れた……!!

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