第28話 俺は理性に抗えるのか?
「あ、う。うん!!」
お姉さんも戸惑いながら俺の後についてソファーのあたりまで片付けに来た。
けれど少し、空気が気まずい。
とはいえ、この部屋が散らかっているのは明らかにモノが多すぎるのが原因なわけで。モノを減らさないと片付けようがないのだけど、それは家主のお姉さんを差し置いて俺ひとりが頑張ってどうにかなるものではない。
「あの、お姉さん?」
「……は、はい!!」
だから話し掛けてみたのだけど、お姉さんは緊張したままで。顔とか赤いままで。やばい、マジで俺、やりすぎた? と、反省してしまう。
けど、いつもはお姉さんからしてくるくせに、されたら顔真っ赤なのなんなの? 可愛いんだけど? そう思う俺はもう重症だと思うのだけど。
「すみません。俺、……帰った方がいいです? 嫌になっちゃいました?」
不安になるのも俺の性格なわけで。なのに。
「……え、帰っちゃう方が……やだ。私一人じゃ、永遠にこの部屋片付かないし。手伝って、欲しい……」
寂しそうな、それでいてお願いするような目で見られたら、もう帰るわけにもいかない。
「……はい。じゃあ、まずはモノを減らしたいので、いるものといらないものに分けましょうか」
だからお仕事モード全開にしてそう言ってみたものの、見た感じ散らかりの原因となっている衣類は、ほとんどが新品のようで。
「えーっと……、これはお気に入りだからまた着たいけど、これはまだ着た事ないでしょ、これは冬になったら着たくって……」
お姉さんひとりでは永久に終わりそうにない。
「もー。なんでお姉さんの身体はひとつしかないのに、こんなにたくさん服があるんですか!! 毎日違うのを着たって余るでしょう!?」
つい、声を荒げてしまったのは、無理やりお仕事モードに振り切っているから。
「だってぇええええ。『いくら以上買ったら送料無料』とか言われたら買っちゃうし、セールになってたら買っちゃうし。『買うのやめよう!』って思っても誰かから頂いたりもするじゃんー?」
なのに俺のお仕事モードに対して弱音モードで返してくるお姉さん。俺の中の庇護欲に刺さってる気がするのは自分でも自分がヤバいと思いつつ。いやいや、ここはお仕事モードで挑まなくてはとまた舵を切る。
「なるほど? じゃあ、分かりました。一旦、季節で分けましょう。真夏に冬の服はいらないですし、厚手のものはかさ張るので。冬服は一旦段ボールにでも入れましょう。これだけネットショッピングしてるのだから、ありますよね? 段ボール……?」
なのに。お姉さんと来たら。
「あ……丁度昨日、捨てちゃった♡」
可愛さ全開モードでてへっと舌を出して答えた。もう、その顔も可愛いからやめて欲しい。自分の理性を保つためにあえて仕事モードで押し殺しているけど、さっき抱きしめてしまったから、本当はまた抱きしめたくて仕方ないのに。
俺の腕の中で抱きしめられていたお姉さんは、腰とかは折れそうなほど繊細なのに、それでいて身体全体は柔らかくて、特に出るとこしっかり出てるから抱き心地がよくて。そして何より全身から漂ういい匂いが俺の理性を刺激した。
にもかかわらず、あの赤くなった顔での上目遣い。やばいだろ、破壊的だろ、俺、よくあそこで理性をお仕事モードに戻せたよ。
マジでグッジョブ、俺。えらいぞ、俺。
はー。俺、こんな思わせぶりなお姉さんの前で、理性を保ち続けられるのだろうか。
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