美人なお姉さんに、日給２万でそばにいてと依頼された件～思わせぶりなお姉さんに、俺の理性がたまに仕事しなくなるんだが？～

第27話 俺の暴走

「今日の時間……このまま延長……したいな」

　お姉さんのその言葉が少し意味深に聞こえて、さらに心拍数が上がる。けれど俺ばかりドキドキするのも悔しい。

　かと言って、雇われてる俺の方から何かするわけにもいかないという理性が働いた。

「延長……ですか。そうですね、そうでもしないとこの部屋、永遠に散らかったままですしね？　片付けますか！！　ね！！」

　だから俺はわざと空気を壊すように呼気を荒げてそう言った。

　けれどお姉さんはまだ俺の背中に抱きついたままで。

（ぐわーなんだよこの空気。急に意味深じゃん。どうしたらいいんだよ、俺！！）

　内心少しパニックになりそうになりながら洗い物を済ませると、俺はくるりと身体を回してお姉さんの方に向いた。

　そしてお姉さんの肩に両腕をポンと置いて、ゆっくりと俺に抱きつくお姉さんを引き剥がした。

　すると明らかに残念そうな顔で俺を上目遣いで見つめてくるお姉さん。

「あ、いや、嫌なわけじゃないですよ？　ただ、俺の心臓がもたないって話しです。分かるでしょ？　俺の心臓の音聞いてたんだからっ！！」

「……そっか。確かに。じゃあ、なんちゃん」

「はい？」

「『依頼』じゃなくて、『お願い』があるんだけど、聞いてくれる？」

　お姉さんは今度はそんなことを言い出した。

（お願いってなんだよ、お願いってぇえええええええ！！）

　内心俺の心が暴走しそうになった。けれどやっぱり俺は平静を装って答えた。

「なんですか、お願いって」

　するとお姉さんは伺うような上目遣いで言ってきた。

「……あのね。この部屋ぜーんぶ片付いたら……今度はなんちゃんから、……抱きしめて？」

「！！」

　その瞬間。なんかもう、俺の理性が仕事しなくなっていて。

　気付けば俺は、お姉さんの身体をしっかりと抱きしめてしまっていて。

　お姉さんの耳元で囁いていた。

「却下」

「え……？」

「そーゆーことを『依頼』じゃなく、『お願い』で言うのはズルいです。俺の理性が仕事しなくなるんで。あんまりそう言う事言ってると、襲っちゃいますよ？」

「……あ。……う。うぅ」

　ハッと我に返って見てみれば、お姉さんは顔を真っ赤にして俺の腕の中で固まっていた。

（うわああああああ、やっちまったああああああ）

　いや、だって、そうだろ。好きな人に散々思わせぶりなことされてきて、それでも理性で耐えてたのに、今度はご褒美的に抱きしめて欲しいとか言われたら、そりゃーもう、抱きしめたくなるじゃん。

　この部屋全部片付いてからとか、そんなのいつになるんだよ。我慢できるはずないじゃん、俺の方が！！！！

　と、言うのは俺の都合でしかなくて。

　俺は慌てて取り繕った。

「ってなこともあるかもしれないので！　お姉さん、ダメですよ？　言葉には気を付けてください。俺も一応男なんで。はい、さっさと片付け始めますよー！」

　わざと空気を壊すようにそう言って、俺はソファーのあたりに逃げるように移動した。