第25話 俺のウソと思い出
「あーうまかった! ごちそうさまでした!!」
「へへーお粗末様でした」
俺が大袈裟に手を合わせると、お姉さんは嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔がいつものお姉さんという感じで、俺もほっとして嬉しくなる。
「お姉さん、お粗末様だなんてとんでもないですよ? 特にあのパイ包み、名前はどうしても覚えられないけれど、めちゃめちゃ美味しかったです。俺のうまいものランキング、かなり上位に食い込んでます」
「え? ブッフ・ブルギニョンのパイ包み?」
「そう、それです。ブッフなんとかのパイ包み。ブッフなんとかの時点で最高だったのに。あんなのパイで包んじゃったらもう。サクサクととろとろと、ソースのコクと香りと。いろんな味や香りと触感が楽しめて、最高でした。もちろん他も美味しかったけれど。はー。マジでお姉さんは天才です」
するとお姉さんはたまらなく嬉しそうな顔をして俺の腕をぽんぽんと叩きながら照れた。
「やだなぁ、なんちゃんたら。褒めすぎだよ? 嬉しくなっちゃう。それで……なんちゃんの美味しいものランキング1位は、なんなの?」
食器をシンクに片づけようとする俺の真隣に並んで、お姉さんは上目遣いで聞いてくる。
……前々から思ってたのだけど、この距離と角度で何かを聞いて来るときのお姉さんの顔……めちゃめちゃ可愛いのだけど。
少しそんな事を思いながら質問の答えを考える。
けれどどうしても俺の中での美味しいものランキングは、さっきの名前が覚えられないパイ包みだったと思う。抜群にうまいものをさらに美味しくしてるのだ。俺の大したことのない食生活の中で、他のものに勝ち目があるはずがない。
けれど。ここでお姉さんの料理が1位だというのは安直過ぎる気がした。それに、やたら可愛い顔で見つめてくるお姉さんに惚れてる自分が、少し悔しくなってしまった。だから俺は、お姉さんを少し悔しがらせたくなってしまって――。
「えーっと、俺の美味しいものランキング1位は……あ、
急に亡き祖母が作ってくれたあの味を思い出して、そう言った。
「タコの唐揚げ? そうなんだ。美味しいよね、タコの唐揚げ」
「はい。俺、子供の頃、タコが嫌いだったんですよ。それがある日、何食わぬ顔で食卓にタコの唐揚げが出てきて。うまいから食べてみんしゃいって言われて」
「うんうん。それでそれで?」
「俺は普通の鶏の唐揚げだと思って食べたんです。そしたらやたらうまくて。何この唐揚げ、めっちゃうまいじゃん!! って祖母ちゃんに言ったら、それ、タコ
俺の言葉にお姉さんはうんうんと頷きながらにこやかに答えた。
「ふふ。それは素敵な思い出だね」
「はい。祖母ちゃんはもう死んじゃってるので、子供の頃の思い出補正もあると思いますけどね」
そう答えながら、急に祖母ちゃんのことを思い出した
日ごろ味気ない食事ばかりしてる俺が、お姉さんが作ってくれた料理に幸せを感じている今のこの状況が、あの頃の祖母ちゃんの思い出と重なったからだ――。
亡き祖母ちゃんとの思い出は、もう俺の記憶の中にしかない。
けれどお姉さんとのこの時間は、大切にしていきたい。ふと、そう思うのだった。
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……タコの唐揚げ、美味しいですよね?
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