第3章 お姉さんとの曖昧な関係

第23話 お姉さんに感じる違和感

(ふう。仕事。これは、仕事)


 お姉さんが住んでいる高層マンションを見上げながら、呼吸と共に気持ちを整えた。


 昨日よりもさらにドキドキとする心臓を抑えてエレベーターを昇っていく。

 そして、お姉さんの部屋へと向かっていくと、お姉さんは今日も玄関からひょこっと顔を出して俺が来るのを待っていた。


「なーんちゃん。いらっしゃい。入って入って」


 俺の顔を見てふわりと笑うお姉さんは、今日も可愛いと思う。けれど、これは仕事! 鼻の下を伸ばさないように気を引き締めて、少し気合いを入れるように『おじゃまします!』と部屋の中に足を踏み入れた。



「ね、座って座って。ごはん出来てるんだー」

 

 リビングに入ると、お姉さんは俺に席へ座るように促した。


「え、手伝いますよ」


 そう言ってみたものの。


「ん、もう出すだけだから大丈夫ー。でも、ちょっとだけ手抜きしちゃった。許して」


 お姉さんは軽く肩をすくめ、ウインクしながら首を傾けた。なんだよ、もう、何しても可愛い。


 

 お姉さんが運んできたメニューは、サラダと、トマトとチーズの冷製パスタと、何かのパイ包み。


「え、これのどこが手抜きなんですか! 豪華でうまそうですけど!」


 驚いて聞いてみると。


「え? へへ。昨日のブッフ・ブルギニョン、作り過ぎて余ってたからパイ包みにしちゃった。メニュー被っててごめんね」


 お姉さんは申し訳なさそうにそんな事を言う。


「何言ってるんですか! これはこれでめちゃくちゃうまそうだし。むしろひと手間加えられててすごいと思いますよ。俺なんて一度作ったカレーはそのままずーっと永久にカレーのまま食い続けますもん」


 だから俺はそう言ったのだけど。お姉さんは微笑みながら答えた。


「もう。なんちゃんってば、相変わらず優しいなぁ」


 ……でも、なんだろうこの違和感。いつもよりほんの少し距離感を感じる。

 俺が知っているお姉さんより、どこか他人行儀な感じ。


 あ、そういえば、今日、俺はまだお姉さんに一度も触れられていない。いつもならそれとなく自然に触れられたりしているのに。それに、いつも嬉しそうで楽しそうな笑顔なのに、今日はただ微笑んでいるだけという感じ。


 いや、それでも十分綺麗だし美人だし可愛いし、素敵だけど!!

 感じのいい人、というのは確かなのだけど。


 いつものあの人懐っこさがなくて、なんとなく……寂しい。


 もしかして、俺が昨日バカとか言ったから? でもお姉さん喜んでる感じだったし……。


 それが原因ではないのなら、……キス、してしまったハプニングのせい?

 いや、思い返してみれば、お姉さんが元気ないのはそれより少し後からだ。

 次回予約もらって、送り出してもらう時にはもうこんな感じだった気がする。


 けれど俺にはさっぱり心当たりがない。だったらいっそのこと、聞いてみるか!!


 そう思って、俺は意を決して聞いてみることにした。


「お姉さん、何か……ありましたか? 今日、元気ないですよね」

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