第22話 南谷の気持ち

「はあああああああああああ」


 俺は自宅に帰って玄関に入ると、長い溜息を吐きながら座り込んだ。


 正直、俺は昨日知り合ったばかりのお姉さんに惚れてしまっている。それも、お姉さんはお客さんで、お金持ちで、美人で、可愛くて、たぶん、有名人。


(……有名人、だよな? サイン求められていたし)


 気になってスマホの検索欄にお姉さんの名前を打ち込んでみた。


 すると案外あっさりとお姉さんの情報が表示され、むしろ知らなかったことに驚いた。


「えっと、なになに、『浅見香奈は日本の元ファッションモデルであり、現在は起業家、ファッションプロデューサー、インフルエンサー』?? え、やば……」


 検索結果に羅列されたお姉さんの錚々そうそうたる経歴に驚愕してしまう。


 それによると、お姉さんは人気ファッション雑誌『Strawberryストロベリー』の専属モデルを卒業後、化粧品ブランドの立ち上げや、人気アクセサリーショップのプロデュースなどを行い、SNSではファッションや美容情報を発信している美容系インフルエンサーとして、女性に圧倒的人気を誇っているとのこと。


 どれも女性向けの内容だから男の俺が知らなかったのも納得と言えば納得だが、ファッション雑誌『Strawberry』自体は、俺でも知っている人気雑誌だ。


 そんな雑誌で表紙を飾っていたらしいのだから、人気もあったのだと思うのに、卒業後は企業広告のモデルを務めたりはするものの、雑誌モデルからは一線を引いてしまったのは、起業家や美容系インフルエンサーとして成功を収めたからなのだろうか。


 大抵のモデルは専属モデルを卒業しても、また別の雑誌の専属モデルになったりするらしいのだが。


 

 けれど、そんなお姉さんの経歴を知って、色々な事に合点がいく。モデルみたいに綺麗なのは、元モデルだったから。いい匂いがしていたのはきっと化粧品の匂い。部屋の中が美容系の物で溢れていたのは、それを仕事としているから。……そして、だから高級マンションに住めるほどの経済力があったんだ……。


 けれど、お姉さんがモデルをしていた頃の画像を見ると、どこか俺のお姉さん像とは違っていた。


 クール系というか、大人っぽい系というか。いかにも“デキルオンナ”という感じ。まぁ……実際起業家として成功しているのだから、仕事が出来ることは確かなのだろうけれど。


 俺の知っているお姉さんは、どちらかというとほんわかとしていて、抜けていて……思わせぶりで、可愛いというイメージ。


 そこまで考えて今日会ったお姉さんを思い出す。


 え、俺……今日、こんなすごい人をバカ呼ばわりしたの? しかも、手作り料理ごちそうになって、ハプニングとは言え、キスしちゃったの??

 

 俺、明日はどんな顔してお姉さんに会えばいいのだろう。


 けれど、これではっきりした。


 お姉さんと俺とは住む世界が違い過ぎるんだ。こんなの完全なる俺の片思い。


 俺への思わせぶりな態度は、きっとお姉さんのちょっとしたイタズラ心。そこに恋心なんてあるはずがない。


 いや、でも、喜ばしいことじゃないか。綺麗なお姉さんの手料理をごちそうになって、楽しく会話してるだけでバイト代が入るのだから。


(そうだよ、これは仕事。仕事でしかないんだ)


 そう思いながら、俺は狭くて暗いキッチンへと移動する。そして、胸につかえるもやもやを水道水でぐいっと胃の中へと流し込んだ。



――第2章 美人なお姉さんの正体は……? 完


――――――――――――――――――――――

ここまで読んでくださりありがとうございます!

物語はまだまだ続きますが、ここまでで第2章完となります。


いやーもう、南谷くんとお姉さん、完全に両思いやん。

と思いつつ、この先さらにいちゃいちゃ甘々になっていくので、見守っていただけたら嬉しく思います。


ですが! ここまでで、少しでもおもしろいなと思っていただけたら★やフォロー、コメント等いただけると、とてもとてもものすごーく、励みになります、先を書く原動力になります。特に読専様……なにとぞ!! よろしくお願いします。


空豆 空(そらまめ くう)

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