第19話 「キス、しよっか」
「はいはい、じゃあ、片づけ始めましょうか。まずは……そうですね。せっかくこんなにおしゃれで立派なソファーがあるんですから、使えるようにここから片付けましょうか」
電球をつけるために出していた脚立を畳みながら、ソファーの傍でそう言った。
「ん、“ソファから片付ける”というのは完全に同意なんだけど……、なんちゃん、そろそろ1時間だよ? 帰らなくて大丈夫?」
俺の言葉にお姉さんはスマホの画面を見せながら心配そうにそう言った。
「え!? あ、やっば。忘れてた。俺の中では完全に電球付けたところから仕事だった」
「ふふ。なんちゃんてば、抜けてるんだからぁ」
そう言って、お姉さんが俺の肩を小突こうとしたその時。
「きゃっ!?」
「え!?」
まだ足元に残る脚立につまづいて、お姉さんが俺の方に倒れ込んできた。
ドッシーンとソファーに倒れ込んだ俺の上にお姉さんも一緒に倒れ込んできて、抱きしめるような形になってしまった。のだが。
「……っ」
……絶対、今、俺の唇に何かが触れた。それはすごく柔らかくて、そしてそれと同時にふんわりと俺の顔にお姉さんの髪と柔らかい吐息がかかった。……それはまるで倒れ込んだ弾みでキスしてしまった事を物語っているようで。
いやいやまさか。……そんなラノベ的展開、あるはずがない。決して。断じて。そう思うのに。今現在俺が抱きしめたままになっているお姉さんからは、やっぱりいい匂いがしていて、そして俺の身体にはしっかりとお姉さんの柔らかな重みが乗っかっている。それだけでもう、俺の心臓の鼓動が早くなるには十分だ。
なのに。
「ねぇ、なんちゃん。……今、…………ちゅー、しちゃった、よね?」
俺が心の中で否定した事を、お姉さん自ら口にした。
「っ!!!!」
その瞬間。俺の心臓はさらにバクバクと音を立て、全身に火照るような熱さが駆け巡る。そして行き場を求めた血流が、一気に頭から突き抜けて行きそうになった。……耳が、熱い。
思わずお姉さんから視線を逸らして何も言えないでいると、お姉さんは両手で俺の頬を掴んでぐっと顔を近づけてきた。
「ふふ。なんちゃん、顔赤ーい。耳も首も真っ赤だよ?? 可愛い」
俺が倒れ込んだソファに散乱しているお姉さんの服からも、俺の身体の上に乗っているお姉さんからも、女性らしいいい匂いがする。そして、両頬を掴まれた状態で、綺麗な顔が至近距離にあるこの状況。
(え、俺、今、息、してる? 心臓、動いてる?)
それすら分からなくなってくる。
ただただ、お姉さんの綺麗な瞳から目を逸らせなくなっていた。
するとお姉さんはゆっくりと指で俺の唇を拭うと、くすっと笑う。
「えへー。なんちゃんの唇に、口紅ついてた。ごめーん。なんちゃんの唇、奪っちゃったね♡」
冗談なのか、誘われているのか分からなくなってきて、くらくらとしてくる。なのにお姉さんは一向に俺の上からどこうとしなくて。
そればかりか、さらにぎゅっと抱きついた。
「……え?」
そして俺の耳元で囁いた。
「真っ赤になってるなんちゃん、可愛い。もっかい……キス、しよっか」
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