第18話 バカ可愛いお姉さん


「はいはい、明日も来ますよ、ご依頼とあらば。けど……」


「ん?」


「いつもいつも飯食わせてもらってるだけじゃ俺の気が済まないので、何か仕事っぽいことさせてください」


 きょとんとしているお姉さんに、俺はずっと気になっていたことを口にした。けれどお姉さんは。


「えー、そんなの気にしなくていいのに。なんちゃんが来てくれるって思うだけで、すっごく楽しいよ?」


 そんなことを言う。たぶん、お姉さんは本心からそう思ってくれているのだろう。けれど、……俺は見過ごす事なんて出来ない。


「まぁ、それはありがたいんですけど……せっかくの広くて豪華な部屋なのに、この散らかりっぷり! なんてもったいないことしてるんですか!!」


 俺は部屋の中を指差してビシッと言い放ってやった。


「うわ。正論きたー。うー。分かってるよー。だからさ? ちょっとずーつちょっとずーつ、片づけて行こうかなって思って。せっかくなんちゃん来てくれるからと思って、昨日もちょこーっと片づけたりしたんだよ? でも、お料理したり今日の服選んだりしてたら時間なかったんだもんん」


「だーかーら。俺が手伝いますっていう話です。見ればわかるんですからね、急いで片づけようとしてやめたってことくらい。なんで『なんでも屋』にごちそう振る舞って、なんでも屋が帰ってから自分で片づけようとしてるんですか!」


 俺は気づいていたんだ。なんか片付けようとした気配と、それを諦めた気配を。たぶん物が多すぎるからどこから手を付けたらいいのか分からなくて、手を付けたものの途方にくれて投げ出したのだろう。


 その証拠に、昨日散乱していた服が、昨日とは違う向きで散乱している。

 さては一旦かき集めて、物理的に放り投げたな。


「え、……え?? なんちゃんに片づけるの手伝ってもらう?? ……その発想はなかった。なんちゃん……もしかして、天才?」


「……いえ、俺が天才なんじゃなくて、お姉さんがバカなんです」


「あぁああー。ひっどおおおおい。これでも一応『依頼主』なのにぃいいいいい」


 お姉さんはわざとらしく腰に両手を当てて顔を突き出してくる。……そのわざとらしく怒ったふりをした顔が可愛くて、一瞬たじろでしまいそうになる。けど、俺はグッと堪えて言い返した。


「……でも、お姉さん昨日言いましたよね? 『もっと仲良く話したいのにな。仲良くなれたと思ってるの私だけだった?』って。もしかして、仲良くなれたと思ってるの、俺だけでしたか?」


 するとお姉さんは、ハトが豆鉄砲食らったような顔をした後、にやついた。


「そっか。バカとか言い合えるくらい仲良しってこと!! ふふ。なんちゃんにバカって言われちゃったー」


 ……お姉さんは満面の笑みでにやついて、俺にバカと言われた事を喜んでいる。


 はぁ、まったく。そんなバカみたいに素直なお姉さんが最高に可愛い。


 ……くそ。俺の方が、バカになりそうだ。


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