第17話 「なんちゃんだけにするね」
「え?」
「なんでも屋さんの仕事って、どこまで『なんでも』してくれるのかなーって思って♡」
本当にこの人は。あくまで冗談や興味本位という感じで聞いてくる。
くそう。俺が先に聞こうと思っていたのに。先を越された気分で、少し悔しい。
「えー。まぁ、なんでも屋も人なんで、人権はありますし、その人にもよるんじゃないですかね。嫌なら断るだろうし、人によってはOKするだろうし。でも実際、例えばお客様が対人恐怖症を克服したいという方だったら、話相手になったり握手やハグ、といったこともありますし……まあ、大抵の事はお受けするかもしれないですね」
悔しいから『なんでも屋』として当たり障りのない答えをしてやった。もともと『なんでも屋さん』として聞かれたのだし。間違ってはいないだろう。
「そっかー。……じゃあ、『なんちゃん』だったら?」
なのに。“俺だったらどうするか”を改めて聞いてくるのだから、お姉さんの方が一枚
「……俺だったら、ですか? ……そうだなぁ。まあ、大抵受けると思います。あんまりそんなお客様もいらっしゃらないでしょうしね」
すると、お姉さんは独り言のように呟いた。
「そっか。受けるんだ。でも……他の人でも受けちゃうんだ。……そっか」
その呟きが、なんとなく“他の人だったら受けないで欲しい”と言っているように聞こえて、やっぱり勘違いしてしまいそうになる。
だからつい、言ってしまったんだ。
「……前々から思ってたんですけど……お姉さんって、思わせぶりですよね。気をつけた方がいいですよ? 男はみんながみんな、善人ばかりじゃないですから」
するとお姉さんは俺を見つめながら答えた。
「うん。分かってるよ? すぐ勘違いして変な気を起こす人も多いって。だから……、なんちゃんだけにするね♡」
その言葉が、少し重みがある言葉に聞こえた。過去に何かあったのだろうか。
実際、米田先輩にも、サインを求めてきたあの女性にさえ、感じはいいけどどこか他所行きというか他人行儀な雰囲気だった。明らかに俺への接し方とは違っていた。
けれど、冗談ぽく言ったお姉さんの後半の言葉に少しドキッとしてしまう。
——『なんちゃんだけにするね』
俺だけ。俺にだけ? なんかもう、嬉しくてどうにかなりそうなんだけど。けれど、喜んでいるのを知られるのは恥ずかしい。だから俺も冗談ぽく答えた。
「俺にはするんですかい」
「…………うん。だめ?」
するとお姉さんは上目遣いで聞いてくるから。
「まあ、いいですけどね。俺だけにしてください。危ないですから」
危ないからという理由をもっともらしく付け加えて、俺の本音をこっそりと忍ばせた。
するとお姉さんは屈託なく笑って。
「はーい。だから、明日も来てね、なんちゃん」
俺を見つめてそう言った。
……はぁ、だめだ、俺。完全に、このお姉さんの思わせぶりなこの雰囲気に、沼りそうになっている。
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