第14話 張り切りすぎのお姉さん
いい匂いに釣られるように部屋の中に入る。部屋の中はさらに料理のいい匂いで満たされていて、昨日部分的に片づけたテーブルは、今日はテーブルの上全体が片付けられていて、おまけにおしゃれなランチョンマットに花まで飾られていた。
……張り切り過ぎでは??
そう思わずにはいられないのだけど、テーブルとキッチン以外の部屋の中は今日も変わらず盛大に散らかったままだった。
「あ、そっちは見ちゃだめー。さすがに一日では片づけられないんだもん」
俺の視界を遮るようにひょこっと俺の目の前に立ったお姉さんは、少し顔を赤らめて恥ずかしそうな顔をした。
「あ、いや、これで部屋の中まで片付いてたら魔法使いですよ。むしろテーブルがおしゃれにセッティングされてて驚きです」
出来ていないことよりも、出来ている事の方を見るべきだと思ってそう言うと。
「へへ。でしょー? なんちゃん褒めてくれるから好きー。ねぇ、先にご飯食べよ? もう用意してあるんだよ」
そう言ってお姉さんはパタパタとキッチンへと向かって食事の用意をし始めた。
(『好き』とか。いや、恋愛的な好きじゃないのは分かるけど! 分かるけど!)
相変わらずお姉さんは勘違いさせてくるなと思う。これが俺じゃなかったら、変な気を起こす男が居ても不思議はないぞと思う。
いや、むしろ昨日のだるだるのTシャツに、裾に隠れるくらい短いショートパンツ姿だった時点でお姉さんの危機感のなさを感じるけれど。
それが今日は俺が来るというだけでデート行くみたいな格好になっているのだから余計にグッとくるものがある。
「あ、俺も手伝います!」
「ふふー。じゃあ、まずは手を洗って、これテーブルに運んでくれる?」
「はいっ」
内心ではいろいろな事を思いつつ、平静を装って食事の用意を手伝った。
◇
「うっわーめちゃくちゃ美味しそう……」
料理を一通りテーブルに並べ終えて席に着くと、思わず感嘆の声が漏れた。
「でしょー? 私にしては珍しく手間をかけて作ったんだよ。いっぱいあるから好きなだけ食べてね」
「ありがとうございますっ!」
そんな俺を見てお姉さんも嬉しそうだ。
今日のメニューは、サラダにスープに、ブッフ・ブルギニョンとパン。ブッフ・ブルギニョンとは、牛肉を野菜と一緒に赤ワインで煮込んだ料理のことらしい。
“手間をかけた”、という言葉通り、今日のサラダには何か分からないサクサクしたものやクルトンが振りかけられているし、スープはチーズがかけられて焦げ目がつけられているし、ブッフなんたらはしっかりと煮込まれていて、見るからに肉がほろほろになっていてうまそうだ。
サクッと検索しててみたら『ブッフ・ブルギニョンは、特別な日や大切な人との食事にぴったりの一品』なんて書かれていて、また勘違いしそうになる。
“特別な日”? “大切な人”? ……いやいや、今日はただただ電球をつけるついでに食事を御馳走になっているだけのなんてことない日で、俺はただその依頼を受けたバイトでしかないはずなのに。
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もう少ししたら甘々展開はじまります!
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