第13話 お姉さんの手料理

――ピンポーン


 お姉さんがアイスの差し入れをくれた翌日。俺は今日もまた超高層マンションのエントランスで、お姉さんの部屋の番号を押した。


『はーい。なんちゃん? ふふ、待ってたよー。上がって来て』


 まだ2回目の訪問のはずなのに、明らかに昨日よりも親しみのある雰囲気で、腹の中がくすぐったい。


 エレベーターに乗ると、やっぱり耳がキーンとするけれど、それよりも早く会いたい気持ちの方が上回って、耳より心臓のドキドキとした痛みの方が上回る。


 お姉さんの部屋がある27階に降りると、相変わらず通路に敷かれた絨毯はふかふかで、けれど自分の気持ちの方がふわふわとしていて、浮足立つとはこのことか? などどダジャレめいた事を思うとくすっとなった。



「なーんちゃーん。おはよっ」


 お姉さんの部屋に向かって歩いていると、すでにお姉さんは玄関前に出てきていて、俺を呼んだ。


「あ、お姉さん。おはようございます」


「へへ。おはよっなんちゃん」

 

 明らかに嬉しそうな笑みを浮かべるお姉さんは、昨日のあからさまに部屋着という感じのだるだるのTシャツではなく、このまま今すぐ出かけられるような服装。……というよりむしろ、デートにでも行くような服装で。昨日とは違って程よくメイクもしてピアスやネックレスもしていた。


「あれ? お姉さん、今日はこの後おでかけですか?」


「え? んーん。今日の予定はなんちゃんが来るくらい」


「そう、ですか」


 まさか、俺が来るからおしゃれした?? そう思わずにはいられないのだけれど。俺はただのなんでも屋として来ていて、お姉さんはただの依頼主で。そして俺は特段金持ちでもイケメンでもないただの貧乏学生のバイトに過ぎなくて。


 俺が来るからおしゃれした、なんてそう考える方が不自然に思う。


「ね、なんちゃん、外暑かったでしょー。入って入って」


 そう言いながら、お姉さんは玄関を押さえて部屋の中へ入るように促してくれるから、俺は『おじゃまします』と言いながらお姉さんの前を横切って中へと入る。


 今日もお姉さんのいい匂いがふわりと鼻腔をくすぐって、ドキドキしてしまう。



 けれど玄関の中に入ってみると、今度は料理のいい匂いが鼻腔をくすぐった。


「え、なんかいい匂いがするんですけど!」


「へっへー。今日はなんちゃん来てくれると思って、昨日から頑張ってお料理作ってみた!」


「え、マジ? 昨日から?」


「うん。だって昨日はお肉焼いただけだったから。今日はちゃんとお料理出来るんだぞーってところ、見せつけようと思って。張り切っちゃった」


 そういうお姉さんの笑顔はやっぱりめちゃくちゃ可愛くて。


 ……俺、やっぱりどうしても勘違いしてしまいそうになる。むしろこんなことされて、勘違いしないやつ、いる?


「そんな張り切ってくれるなんて……。一体何作ってくれたんですか?」


「えっとねー。ブッフ・ブルギニョンだよ♡ なんちゃんは、好き?」


 お姉さんが口にした料理名は、どんなものか想像すら出来ない、聞いたことがないメニューだった。

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