第10話 俺の自覚
「なんだー南谷ー。浅見さんに惚れちゃったりでもしたかー? 残念そうな顔して」
「え、いや、そんなことは……!」
先輩の言葉を慌てて否定する。
「ははは。おまえ、分かりやすいな。顔に出てるぞ? まぁ、浅見さん美人だもんな。おまえも電話応対できるようになったらまた浅見さんの依頼も受けられるかもしれないぞ。だから早く慣れろ。な」
「え!? マジですか! 電話受けれるようになったら浅見さんの依頼も受けられるんですか!?」
「ぷっ。おまえマジで分かり安すぎ。受けれるよ。浅見さんから掛かってきた電話をおまえが受ければ、基本的には電話を受けたおまえの案件だ。担当の指名があったり、希望の時間帯が合わなかったら他の人になるけど、浅見さんはいつも指名はしてこないしな」
そっか、そうなんだ。だったら早く電話応対も出来るくらいになりたい。そう思って、はたと気付く。
……え、俺、さっき先輩の言葉を否定したけど……
うっすらお姉さんに……惚れちゃってる?
そう思いつつ。いやいやまさか。たった小一時間いっしょにいただけだし!! それに、なんでも屋とお客さんというだけの関係だし。
それに――
あんなに綺麗なお姉さんが、俺に惚れる理由がない。
そこまで考えるとなんだか悲しくなってきて、ふぅーと息を吐き出した。
「南谷、南谷、おまえ、百面相みたいになってるぞ。早く慣れるためには依頼をたくさん受けること! よし、今からチラシ配り行ってこい!」
先輩に俺の心の中を見透かされたように背中をバンと叩かれて、チラシの束を渡された。
「え、あ、はいっ」
「いい返事だ。そうだなー。駅前の広場にでも行ってこい。あそこなら人通りも多いし比較的涼しいし。……浅見さんの家も近いから、もしかしたら浅見さんに会えるかもしれないぞ」
「え!? あ、はいっ! い、いってきますっ!!」
俺は先輩に言われるがまま、チラシを持って店を出た。すると背中側から俺に呼びかける先輩の声が聞える。
「おーい、南谷。暑いから水分補給しっかりな!! バテたら電気屋の中にでも入って休み休みしろよ。倒れたら元も子もないからな!!」
「はーい!」
俺は振り返って返事をしつつ、先輩に恵まれたなと思う。まだ始めたばかりのバイトだけど、米田先輩は面倒見が良くていい人だ。
駅前の広場について、当たりを見渡す。自然と視線に入ってくるのは、さっきまで俺が仕事場として行っていたお姉さんの住んでいるマンション。
高層マンションだからすごく目立つ。
(今頃、お姉さんは何してるのかなー)
ふと気づくとそんな事を考えてしまっていて、こんなに近くにいるのだから偶然会えたりしないだろうかと思いながらチラシを配りはじめる。
暑くてどんどん汗が噴き出してくるのに、通行人は一向にチラシをもらってくれない。
(……これ、全部配るとか無理じゃね!?)
そんな事を思っていると、後ろから綺麗な声で話し掛けられた。
「あれぇ? なんちゃん? なんちゃんだよね!?」
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