第7話 お姉さんの勘違い

「ごちそうさまでした! マジでうまかったです。ありがとうございます」


 食事を終えて、手を合わせてお礼を言った。


「ふふー。こちらこそだよ。久しぶりに楽しい食事だった! キミ、美味しそうに食べてくれるし、話してて楽しいし!」


「いやいや、そんな。でも……俺、いいもの食べさせてもらっただけでマジで今日何も仕事してないから何かしますよ。何かないですか、雑用とか! あ、でもその前に、洗い物くらいはしますね」


 そう言って俺は席から立ち上がり、お皿をキッチンに下げようとした。すると。


「えー? いいよいいよ、そんなの。便でしょ?」


 そう言ってお姉さんに軽く袖口を掴まれた。


 反射的にお姉さんを見つめると、お姉さんも俺を見ていて、なんとなく見つめ合う形になる。


 なんなの、この距離感。ちょっとドキッとするんだけど。


 なんて思いつつ、そんなのは俺の個人的な感想でしかないので置いといて。『そんなの便利屋さんの仕事じゃない』とは、どういう意味だろう。


「え? いや、今のは食べさせてもらったのだから洗い物くらいはって感じで言いましたけど、俺、なんでも屋だから、言ってさえくれたらだいたいの事は『なんでも』やりますよ? 洗い物でも、片づけでも、買い物でも。時間内ならいくらでも」


 普通に何の気なしにそう言うと、お姉さんは『あれ?』というような顔をした。


「……なんでも屋? キミって、なんでも屋、なんだっけ。便利屋さんじゃなくて?」


「え? まぁ、『便利屋』も『なんでも屋』も店によって内容違ったりもしますけど、俺が働いてる店は“なんでも屋ナンデーモ”なので、なんでも屋、ですね。基本的に出張料金+1時間料金なので、時間内なら何を頼んでもらっても一律料金です。一部例外もありますし、お断りすることもありますけど……」


「……え、そうなんだ!? やけにキミのところは毎回料金一緒だなーって思ってたんだよね。引っ越してくる前に頼んでたお店は、電球変えたらいくら、ドアノブ修理してもらったらいくら、って毎回料金違ってたのになーって思って」


「え!?」


 それを聞いて驚いたと同時に合点がいった。もともと俺がお姉さんのところを初勤務先にしてもらったのは、お姉さんがいつも簡単な仕事だけでしっかり1時間分の料金を払ってくれる上顧客だったから。仕事に慣れるのにちょうどいいだろう、という理由だった。


 でもまさか、お姉さんがうちの店の料金システムを知らなかったからだったとは……。


「へぇ、そっか。キミはなんでも屋さんなんだ。依頼したらやってくれるんだ……。そっか、……か。ふふ」


 気のせいだろうか。お姉さんが少し、イタズラっ子みたいな顔をして喜んでいる気がするのは。


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